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Ensemble Toneseek Vol.3 第3回演奏会 ~ 感光 / sensitizations ~

プログラム
吉田優歌:YOU(2024)**
ヨハネス・シェルホルン : sérigraphies (2007-2016)より nocturne *
渡邉翔太:ほどけた焦点を伝い(2024)**
ヨハネス・シェルホルン : sérigraphies より barcarolle*
細川俊夫:夕顔(2020)
増田建太:植木鉢(2019/2024)**
矢野耕我:三者会合(2024)**
ヨハネス・シェルホルン : sérigraphies より prélude No. 1-3 *
*日本初演 **世界初演

出演者
Ensemable Toneseek
指揮:馬場武蔵
フルート:齋藤志野
クラリネット:鄭圭祥
打楽器:沓名大地
ピアノ:秋山友貴
ヴァイオリン:山本佳輝
チェロ:下島万乃

Ensemable Toneseek
代表 久保哲朗
制作協力 西村聡美
ステージマネージャー:美間拓海、茶木修平

主催:Ensemble Toneseek
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京[スタートアップ助成]

公募によって選ばれた、中堅・若手作曲家による作品を中心とする演奏会。アンサンブルのメンバーが取り上げたい作品を選ぶというプロセスは非常に魅力的である。練達の演奏家たちがどのような作品を選ぶのか、興味をそそられた。

吉田作品…4人の奏者は横一列に並び、聴衆と相対する。冒頭は拍手の中から曲が立ち上がるという趣向のようだった。プログラム・ノートは曲の合間でも聴衆が拍手をすることによって参加するよう呼びかけている。さらに、タイトルと、短い終曲で奏者たちが口にする"YOU"は聴衆に呼びかけるものだろうか。とすると、奏者と聴衆との関係性を再考するという趣旨かと思われる。手拍子から派生した硬質の音たちが小気味良い。ただ、演奏としての手拍子と、賞賛のための拍手は基本的に異なっている。自然発生的な拍手を「演奏」と捉えるなら、記譜は極めて複雑なものとなるはずである。本作における4人の奏者それぞれの手拍子もかなり複雑なものだが、拍手はその比ではない。両者を連続的に結ぼうとする想定には、やや無理があると感じた。

シェルホルン作品「ノクターン」…響きを消したヴィブラフォンとフルートの息の音など、絶妙な音の組み合わせによって不思議な響きが生じる。ピアノの内部奏法も効果的に用いられている。楽器の特性を知悉した筆法である。

渡邉作品…全編ごく静かな音楽ながら、聴き手を過度に緊張させることがない。澄んだ、明るい響きが魅力的だった。音から旋律的な属性を剥ぎ取ることにより、自然音と同様に文脈を無くした音によって音楽を紡いでいく。しかも、単純な自然音の写しではなく、抽象的な音楽として味わえる点が良いと思う。

シュルホルン作品「バルカローレ」…中間部になるか、和音が虹のように立ち上がる部分の音の配合が見事。

細川作品…沓名氏の、巧みに抑制された弾き方がすばらしい。余分な情趣を付け加えることがない。無闇に強打せず、極めて繊細なタッチで弾くことで、音楽の姿を明確に示している。光に愛されたが故に命を落とす夕顔の切ない物語。最後の音の余韻の中に、それが立ち上がるかのようだった。

増田作品…開始部からしばらくの間、楽想の焦点が定まりきらないのが残念。後半から終結部に至る部分で、ヴァイオリンがコマ近くで蠢くような音を奏し始めると、湿り気のある、しかし身を置いていて不快ではない充実した響きが実現され、興味深く聴けた。

矢野作品…3人のキャラクターの会合の様子を、作曲者が開発した架空の「リズム言語」によって描写したものという。特徴あるリズムの中で、細かい音符のやりとりが展開されていく。高度な技巧を要すると思われるが、聴いた印象としてはあまり新味がない。3つの楽器にそれぞれ個性あるキャラクターが割り振られているとのことなのだけれど、聴いていてもその区別がつきにくいのが残念。

シェルホルン作品「前奏曲1〜3」…それぞれ特徴的な小品。1曲目は細かい音符の受け渡しによって展開する技巧的な作、2曲目と3曲目では原曲の持つ、非常に古い時代の響きがはっきりと立ちあらわれて、はっとさせられる。今回のシェルホルン作品は、美術でいうところのアプロプリエーションと言えると思う。異化を通じてもとの作品のポテンシャルを巧みに抽き出していて、おもしろかった。

四つの新作を聴いて、演奏するおもしろさと、聴取するおもしろさは、重なるところもありつつ、基本的には異質のものなのだと感じた。

とはいえ、演奏家が作品を選ぶことは非常に有意義だということも明確に感じた。今回の演奏会の準備にあたって、作品を採択された作家と演奏家との間で事前のやりとり(「演奏家と作曲家による音楽実験と対話の場「リーディング・セッション」」)がなされたという。

演奏会タイトルは「感光 / sensitizations」とある。演奏家と作曲家が、互いに「感光」しあうといった趣旨であったかと想像した。なお、"sensitization"は「敏感にすること」「感光性を与えること」といった意味との由(『英和中辞典』研究社)ー。

作家の側から作品に込めた意図を明確に伝達する、他方、演奏家からは豊かな演奏経験から得た知見を創作へとフィードバックする。極めて貴重な機会となったはずである。現代作品に通じた奏者が、「物言う演奏家」として作曲家と対峙する。そして、双方が技術と内面を共に高めていくことが期待される。今回のような取り組みをぜひ継続していただきたいと思った。(2024年7月27日 トーキョーコンサーツ・ラボ)

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