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東京現音計画#20~コンポーザーズセレクション7:野平一郎〜回想のイティネレールと「飽和」(サチュラシオン)

プログラム監修:野平一郎

プログラム
◯ラファエル・センド《バッドランズ》打楽器のための(2014)
◯ヤン・マレシュ《ティチューブ》チューバのための(2001)
◯ユーグ・デュフール《マティスによる「赤いアトリエ」》エレクトリック・ギター、サクソフォン、ピアノ、打楽器のための(2020)
◯フランソワ・ブーシュ《エコー分裂》エレクトリック・ギターのための(1986)
◯ミカエル・レヴィナス《空間ピアノのエチュード》(1977/2010)
◯ヤン・ロバン《5つのミクロリュード》ソプラノ・サクソフォンとエレクトロニクスのための(2005)
◯野平一郎《忘却のテクスチュアI》サクソフォン、チューバ、ピアノ、打楽器とエレクトロニクスのための(2023-2024 委嘱・世界初演)

演奏:東京現音計画 
有馬純寿(エレクトロニクス)、大石将紀(サクソフォン)、神田佳子(打楽器)、 黒田亜樹(ピアノ)、橋本晋哉(チューバ)
客演:山田岳(エレクトリック・ギター)

主催:東京現音計画
助成:芸術文化振興基金助成事業、公益財団法人野村財団、
公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京 [東京芸術文化創造発信助成]
この公演はサントリー芸術財団佐治敬三賞推薦コンサートです。

ピアノ提供:株式会社ヤマハミュージックジャパン

協力:Editions Henry Lemoine、東京音楽大学、秋山友貴、日本アルバン・ベルク協会、有限会社ハリーケン、モモ・カンパニー

センド作品…ティンパニ以外は金属製楽器による。冒頭、懸垂シンパルなどの縁を弓で弾いていく部分は、響きを精密に聴かせる趣向かと思ったけれど、あとは月並み。

マレシュ作品…課題曲とあって高度な技巧を要する作とみられるが、同じような楽想が続き、面白みに乏しい。

デュフール作品…類似の楽想が延々と続くばかりで、集中できず。

ブーシュ作品…山田氏の繊細な演奏。エコーというエフェクトのみでこれだけ豊かな響きが作り出せる、という表明か。即興的なフレーズを記譜したようにも感じられる。演奏者でもある作家ならではの作品だろう。

レヴィナス作品…さほど手の込んだ変調は用いずにおもしろい響きを作っている。ふっと調性らしきものがあらわれる瞬間が印象的。

ロバン作品…大石氏の力演。ソプラノサックスの音色を活かした聴きやすい作品だと思ったが、そこまで。

野平作品…エレクトロニクスはもっぱら音像移動。さまざまな楽想が次々あらわれ、逸らさない。しかし、モチーフ間の有機的な繋がりが見出しにくい。音数は多いけれど、全体としての構築感が希薄で印象に残らない。

なぜ今これを聴く必然性があるのかと感じられる作品が多かった。タイトルに「回想」とあるけれど、プログラム・ノートを読む限り、野平氏のフランス時代の「回想」であり、ある時期における、かの地の思潮の一部を伝えてはいるけれど、より大づかみな音楽シーンの流れ、さらには音楽史の中でのある一コマを示すといったものではない。

野平作品を含め、音色・響きに重点が置かれる書法によるものだと思われるけれど、作家の姿勢は一方的に音を出すことに終始し、聴き手に音や響きを十分に味わせようという視点がない。

野平氏としては、高機能なユニットとの協働ということで、各人に見せ場を作ろうとしての選曲だったのだと思う。演者はみなさん極めて真摯に演奏していた。しかし、奏者の音楽性と技量に見合う作品群とは思えず、音楽家の「無駄遣い」となってしまった。これではあまりに勿体無い。

もう一点、あとでつらつら考えていて、自分は、新しい音楽を聴く時、virtuosity にはほとんど関心がないと気づいた。作品自体の建て付けそのものに新しさがある時、作品の構造や手法自体は目新しくなくても、これまでになかった視点を示してくれている時に、非常に惹かれる。今回は残念ながらそういった新しい景色を見せてくれる作品がほとんどなかった。(2024年3月22日 かつしかシンフォニーヒルズ・アイリスホール)

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