音の始源を求めてPresents 電子音楽の個展 「松平頼暁」=電子音楽VS環境音楽=NHK電子音楽スタジオ70周年記念事業Vol.3
主催:大阪芸術大学音楽工学OB有志の会
協賛:株式会社ジェネレックジャパン
協力:スリーシェルズ
助成:公益財団法人かけはし芸術文化振興財団
<曲目>
トランジェント '64 1964
テープのための「アッセンブリッジス」1969
大阪万博12チャンネル作品 お祭り広場 1970
「おはようの音楽」Theatre piece ver. with bulb lighting by Takeshi Mukai
テープのための「アッセンブリッジス」1969 Concept by Hirosi Siotani
トランジェント64…冒頭からあらわれる、ふわふわした感触の音が魅力的だった。さまざまな音色が登場し、時として人の声のように聴こえるものもある。ジェネレック社製スピーカーから流れる電子音は、背後のノイズも含め、制作と再生に携わった人々の手の感触と深みがあった。
アッセンブリッジス…美術用語の「アッサンブラージュ」を参照したタイトルのようで、さまざまな音を寄せ集めた感のある作。今日のプログラムの中では最も興味深く聴けた。ポピュラー音楽のビートを潰れたように加工したと思しきものが繰り返しあらわれる。それが作品全体の推進力を作っていて、聴きやすい。低く鈍い打撃音、人の声などさまざまな素材があらわれるが、そのビート音がリズム上の紐帯として機能し、全体を織り合わせており、一種ロンドのようにさえ感じられた。塩谷宏氏の構想をもとに、今回の会場Artware hub KAKEHASHI MEMORIALの全方位型36.8chイマーシブステージによる再生もおこなわれた。
おはようの音楽…1970年の大阪万博会場中央のお祭り広場で流された朝の音楽である。いろいろな言語の「おはよう」や、鐘の音が聴こえる。他方、冒頭に響き渡る長鳴鶏は、末尾が怪鳥の声というか、女性の叫び声にも聞こえる。そして、しばしば軍靴のような行進する靴音が聞こえる、という具合に朝の音楽にしてはあまりに禍々しい。作曲者は本作に強い反戦のメッセージを込めており、戦禍を乗り越えた光として万博を捉えたとのことである。緊張感のある音構成を聴いていると、戦争という暴力に対する純粋な怒りが感じられる。MCから、お祭り広場の大屋根の高さに比して実際のPA設備は貧弱で、来場者は楽曲を十分には味わうことができなかったのではないかとの話が披露された。今回が本来の楽曲の姿に近い音響の初披露になったという。長い時間を経て「復原」された本作、そこに込められた作家の想いが現代の世界情勢と重なるのは皮肉である。
アンコールとして、クセナキスのUPICシステムによる「コンステレーション」。
八王子・長沼の森の中での公演からのハシゴとなった。方向性が大きく異なる音楽なので、当初はギャップに苛まれるかと思っていたのだけれど、聴こえてくる電子音にすんなり馴染めたのが不思議だった。改めて考えてみて、本日聴いた2つの公演は、個々の音に対する扱い方が丁寧に吟味されている点が共通すると感じた。そのお蔭で、それぞれの印象が互いに打ち消しあってしまうことがなかった。(2024年4月27日 Artware hub KAKEHASHI MEMORIAL(西早稲田))