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長谷川将山 第一回 尺八リサイタル

出演
長谷川将山(尺八)
特別出演:藤原道山(尺八)
賛助出演:中島裕康(箏)

プログラム
初代中尾都山:慷月調
肥後一郎:筦絃秘抄
藤原道山:長管尺八のための《世宇》“SHO” for long Shakuhachi(世界初演)
廣瀬量平:アキ
杉山洋一:望潮(世界初演)

主催:朝日新聞社、浜離宮朝日ホール、株式会社DO
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京[東京ライブ・ステージ応援助成]

長谷川氏が大切に演奏してきた作品と新作による構成とのこと。前半は短管、後半は長管による作品と、この楽器の音色の広がりがよく示されていた。

都山作品…長谷川氏が所属する都山流の創始者による作。B→Cで聴いた時よりも、一音ごとの表情が格段に豊かだと感じた。殊に、長く引く音が実に味わい深い。音の向こうに風景が見えるような。同時に、非常に現代的な音の使い方をしている作だと感じられた。

肥後作品…アジア的というか、筝の静かで妖しい響きから始まる。音が細かくなり、静かな音形を繰り返すところへ尺八が奏し始める。長谷川氏は都山作品ではまだやや固さがあったかと思われたけれど、本作ではぐっと落ち着いた、広やかな音を響かせていた。中島氏のシャープな好演。

藤原作品…舞台の照明を完全に落とし、漆黒の闇の中で始まる。それぞれ「しょう」と読める漢字を題とした10の特徴あるセクションからなる。尺八のさまざまな技法と音色が繰り出されていく。演奏家ならではの作品だと感じる。

廣瀬作品…息の合った師弟共演。後半で2本の尺八が触発し合う場面を聴いていて、廣瀬氏の中には、尺八、リコーダーといった楽器の枠を超えた「笛の音楽」といった構想、もしくは思想があったのではないかと感じた。笛の管の中で、息の流れがそのまま音になっていく、そのプロセスを愛おしむかのような趣があった。高校時代、仲間と廣瀬氏のリコーダー曲に取り組んだことを思い出しつつ聴く。

杉山作品…プログラム・ノートによると、強弱・表情記号などを可能な限り排し、奏者の即興に委ねる部分を多くしたとのこと。冒頭の都山作品と同様、一つひとつの音をじっくり聴かせる作品である。音素材そのものに耳を傾けようとする作家の姿勢がよくあらわれている。ただ、都山作品に比して、音色や楽想の幅が限定的だったのが残念。逆に都山作品の豊穣さが際立つ結果となった。もっと奏者に自由に歌わせるような方向性があるとなお興味深く聴けたのではないか。

アンコールにバッハ「無伴奏フルートのためのパルティータ」より「サラバンド」。B→Cでも聴きごたえがあったが、今回はさらに自由度が増していておもしろく聴けた。バッハ作品、さらに取り上げてくださることを期待。

今回も、長谷川氏の豊かな音色と着実な技術による演奏を楽しむことができた。いずれの作品に対しても非常に真摯な姿勢で臨んでいることがうかがわれ、それぞれの曲の姿がよく捉えられる演奏だった。長谷川氏は演奏会当日に30歳を迎えたとのこと。今後がますます楽しみな演奏家である。(2024年12月16日 浜離宮朝日ホール)

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