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モノフォニー·コンソート第8回公演 ひびきのノスタルジアへ

ハリー·パーチ:古代ギリシャ音階による二つの習作
箏:山野安珠美  箏:今西紅雪  十七弦箏:マクイーン時田深山

ピーター·ガーランド:南十字星のノスタルジア
箏:山野安珠美、今西紅雪

松村禎三:ギリシャに寄せる二つの子守歌 II
箏:山野安珠美、今西紅雪

藤枝守:植物文様 箏歌「天鳥舟」
声+十七弦箏:マクイーン時田深山

藤枝守:植物文様 第11集 パターンA、C
箏:今西紅雪笙:大塚惇平

クリストファー·スヴェンソン:Som morgonånga betraktad (初演)
Kristofer Svensson: As morning mist seen
十七弦箏:マクイーン時田深山

芦川聡:プレリュード
箏:今西紅雪、山野安珠美

藤枝守:植物文様 第10集「オン·ザ·モノコード」
箏:山野安珠美  十七弦箏:マクイーン時田深山

藤枝守:植物文様 箏歌「枯野」
声+箏:マクイーン時田深山  箏:山野安珠美   笙:大塚惇平

ルー·ハリソン:エヴリン·ヒンリクセンのためのワルツ
箏:今西紅雪、マクイーン時田深山  十七弦箏:山野安珠美  笙:大塚惇平

【企画】モノフォニー·コンソート(音楽監督:藤枝守)
【制作協力】マイルストーン·アートワークス
【助成】野村財団【デザイン】竹中ゆき奈

モノフォニーコンソートによる17年ぶりの公演。音楽監督である藤枝守氏によると、若い世代の演奏家に、純正調による音楽を継承することが大きな目的という。

曲ごとに使用している音律が異なるため、転換のたびに細かい調律が必要となる。奏者同士が互いにじっくり聴きあうひととき。正直に言うと、初めは、その様子を眺めていて、無意識のうちに「まだかな、まだかな」と気が急いていて我ながら呆れた。「無駄」な時間をどんどん切り詰める発想にいつの間にか染まっているのだった。

今回の公演は、こうした西洋的合理性とは完全に逆の方向性をもっている。むしろ、チューニングも含めてのパフォーマンスとして捉えるべきなのだろう。さらに極端なことを言うなら、初源的な音楽の在り方としては曲の始まりや終わりを明確にし過ぎないのが望ましい姿なのかもしれない。理想的には、演者が集まってきて、音を合わせたり、少しさらったりしているうちに、なんとなく始まり、なんとなく終わる、というような。

パーチ作品…日本音階のように聴こえる。筝の音色と曲調がぴたりと合っている。

ガーランド作品…なんとも優しげな佳品。パーチ、ガーランドと聴いていると、徐々に肩の力が抜けてくる。

松村作品…この作品も、今回のトランスクリプションが見事にマッチしており、ふしがのびのびと歌われていくさまが印象的だった。あたかも平均律の中に囚われていた音楽が解き放たれたかのように感じられる。

藤枝作品「天鳥舟」…声と筝のみによる作品だけれど、海と空との大きなスケールを感じる。

藤枝作品「第11集」…パターンによって表情が大きく異なる。メランコリックなパターンCが印象的。

スヴェンソン作品…ぽろんぽろんと音一つひとつを丁寧に置いていくような作品。純正調によるもので、耳が馴染んでいる平均律との差分が際立つ箇所では、敢えて積極的にメインストリームから「降りて」、より本質的なところをめざしていくような感覚があっておもしろい。

芦川作品…静かだけれど、微かに張り詰めた空気の感じられる作。"fragile"という単語が浮かぶ。"ひ弱"といったニュアンスではない。ごく繊細で、一音ずつを慎重に綴っていくことが求められる音楽なのだと感じる。芦川氏がピタゴラス音律による演奏を想定していたか否かはともかく、奏者同士が深く聴き合うポテンシャルが曲に内在されており、今回の演奏形態によってそういった特質が顕になったのだと思う。

藤枝作品「第10集」…ブルースのようなふしが印象的。一連の曲集の中では珍しくダイナミックな動きのみられる作だと感じられる。

藤枝作品「枯野」…古事記のエピソードを題材とした作品。「天鳥舟」と同様に古代の歌がゆったりと綴られていく。歌の終わりには不思議な琴の音が聴こえてくる。

ハリソン作品…「ワルツ」という西洋音楽のフォーマットながら、「邦楽器/雅楽器で演奏してみました」的な違和感は皆無。よく考えられたメロディの妙である。筝や笙の音がさらさらと流れていく。

演者と聴衆の距離がごく小さく、両者間の親密な関係性が自然に生じていた。両国門天ホールがこぢんまりした空間であることが奏功した。

4名の演奏家は気持ちのこもった、丁寧な演奏を展開していた。マクイーン時田氏の歌は、“いかにも琴歌"的な発声とは距離を置き、ニュートラルな歌い方。聴く者に想像力を働かせる余地が十分にあって、ありがたかった。

このグループによる活動、今後もぜひ追いかけたい。(2024年8月25日 両国門天ホール)

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