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現代奏造Tokyo第9回定期演奏会 管打楽器合奏の限界と可能性~シェーンベルク以降の種々相

<出演>
指揮 / 板倉康明
独奏フルート / 石田彩子
コンピュータプログラミング&オペレート / 福澤龍一
音響 / 富 正和(M-AQUA)
演奏 / 現代奏造Tokyo

<プログラム>
・ピエール・ブーレーズ / イニシャル(1987)
・武満徹 / ガーデン・レイン(1974)
・西岡龍彦 / 独奏フルートとコンピュータ、ウインド・オーケストラのための『夢のかたち』(2024・改訂初演)
・白岩優拓 / INVITATION Ⅶ〈祈りと魔法〉(世界初演)(2024)
・西村朗 / 秘儀lX〈アスラ〉(2023)
・アルノルト・シェーンベルク / 主題と変奏 作品43a(1943)

主催:一般社団法人現代奏造 Tokyo

特別協力:野中貿易株式会社・株式会社 全音楽譜出版社・株式会社 東京ハッスルコピー
後援:一般社団法人 日本作曲家協議会(JFC)・一般社団法人 東京シンフォニエッタ
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京 独立行政法人日本芸術文化振興会 芸術文化振興基金助成事業

現代の作品を積極的に取り上げている管打楽合奏団、実演を聴くのは初めて。

ブーレーズ作品…短いながら、それぞれの楽器の特性を活かした佳品だと感じた。トランペット・ホルン・トロンボーンのトリオが左右に、その間にチューバという配置で、同じ楽器の間で細かい音による掛け合いがなされる。細かな音のアンサンブルがもう少し精密だとさらに聴きごたえがあったのではないか。

武満作品…本作の特徴である最弱奏の部分は、高音域も多く演奏至難と推察されるが、いかにも恐々なのが伝わってしまい、残念。舞台の手前と奥に分割して配されるが、両群の対比がもっと明瞭になると、なお良かった。プログラムの中での置き所としてこうするしかなかったのは理解できるのだけれど、もう少し奏者の身体と楽器が温まってからのほうが良かったか。

西岡作品…1994年の作品の改訂版とのこと。4つの部分から成るが、そのうち3番目のみ独奏フルートとライブ・エレクトロニクスによる演奏となる。しかし、なぜこういう趣向にしたのかがよくわからない。作曲時には最新の技法を試みたかったということか。前後の部分は手堅い書法ですっきりまとまっており、この団体のアンサンブル力が発揮されていた。それもあって余計にエレクトロニクスを援用する必然性が弱いと感じた。独奏の石田氏は快演。

白岩作品…プログラム・ノートにある通り「魔法使いの弟子」の断片が聴こえてくる。かっちりまとまっているけれどあまり印象に残らなかった。

西村作品…ヒンズー教の神話に着想を得た作品とのこと。冒頭の、楽器を重ねた響きは独特で引き込まれる。その後も、東洋風の曲想の中、厚みのある不思議な和音が次々に繰り出され、おもしろく聴ける。作曲家が長年にわたって連作を重ねてきた蓄積が結実した作と感じられた。また、本作の魅力を引き出せるのも、合奏団としての性能の高さによるものだと思う。このように音響的には極めて完成度が高く、管打楽合奏作品の一つの到達点を示すものと言えるのではないかと考えた。けれども、管打楽合奏、いわゆる「吹奏楽」というフォーマットそのものの扱いに関して新たな境地を拓き得たかというと疑問がある。あくまで従来的な管打楽合奏の形態を所与のものとしていて、例えば、解体する、何らかの方法で相対化するといった試みはみられない。それゆえ、興味深く魅力的な響きも、趣向として回収されていくこととなる。

シェーンベルク作品…「主題と変奏」と題されているけれど、各変奏は切れ目なく繋がっていくことが多い。それゆえ、シャコンヌなど少し古めかしい形式に近く、各変奏の間のメリハリがしっかりついていることが必須だと思われる。しかし、今回の演奏は起伏に乏しく、一本調子で、決して大曲ではないにも関わらず、半ばあたりから非常に長く感じられてしまった。これだけ能力の高い演奏家集団なのだから、聴かせ方でいくらでもおもしろくなるはずなのに、勿体無いと思われてならなかった。

テーマとして「管打楽器合奏の限界と可能性」が掲げられており、「限界」の一端は(期せずして、かもしれないけれど)明らかになったように思うが、「可能性」のほうは見えてこなかった。今後に期待したいと強く思った。(2024年5月9日 渋谷区文化総合センター大和田 4階 さくらホール)

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