東京現音計画#21~ミュージシャンズセレクション8:橋本晋哉2 with 菅沼起一Switched-on Dufay
主催:東京現音計画
助成:公益財団法人野村財団
芸術文化振興基金助成事業
公益財団法人日本室内楽振興財団
公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京[東京芸術文化創造発信助成]
ディレクター·橋本晋哉
プログラム監修·菅沼起一
出演·東京現音計画
有馬純寿(エレクトロニクス)
大石将紀(サクソフォン)
神田佳子(打楽器)
黒田亜樹(ピアノ)
橋本晋哉(チューバ)
客演·菅沼起一(リコーダー)、夏田昌和(指揮)
Program
1ギョーム·デュファイ/夏田昌和 ミサ曲《幸いなるかな天の女王》から <サンクトゥス>
音源制作:井藤淳 有馬純寿(エレクトロニクス)
2、永見怜大《ブルースカイ·フォーリング》リコーダー、サクソフォン、チューバ、ピアノ、打楽器のための(2024 初演)
菅沼起一(リコーダー)、大石将紀(サクソフォン)、橋本晋哉(チューバ)、黒田亜樹(ピアノ)、神田佳子(打楽器)、永見怜大(指揮)
3グレゴリオ聖歌 交唱《幸いなるかな天の女王》
菅沼起一(リコーダー)、大石将紀(サクソフォン)、橋本晋哉(チューバ)、黒田亜樹(ピアニカ)、神田佳子(打楽器)
4内垣亜優《デュファイの音楽を聴いて》リコーダーとチューバのための(2024 初演)
菅沼起一(リコーダー)、橋本晋哉(チューバ)
5ギョーム·デュファイ《コンスタンティノープル聖母教会の嘆き》
菅沼起一(リコーダー)、大石将紀(サクソフォン)、橋本晋哉(チューバ)、黒田亜樹(ピアノ)
6麻生海督《地下劇場4》(2024 初演)
大石将紀(サクソフォン)、橋本晋哉(チューバ)、有馬純寿(エレクトロニクス)
7、ギョーム·デュファイ《花の中の花》
菅沼起一(リコーダー)、大石将紀(サクソフォン)、橋本晋哉(チューバ)
8山田奈直《クローク·オブ·コンシェンス》(2024 初演)
大石将紀(サクソフォン)、橋本晋哉(チューバ)、神田佳子(紅楽器)、有馬純寿(エレクトロニクス)、山田奈直(指揮)
9ギョーム·デュファイ《もしも顔が青いなら》
黒田亜樹(トイピアノ)
10石田千飛世《メカニカル·デュファイ》木琴、トイピアノ、チューバ、スマートフォンのための(2024 初演)
橋本晋哉(チューバ)、黒田亜樹(トイピアノ)、神田佳子(打楽器)、石田千飛世(スマートフォン)
11ギョーム·デュファイ/夏田昌和 ミサ曲《幸いなるかな天の女王》から<サンクトゥス>+奏者による即興演奏
菅沼起一(リコーダー)、大石将紀(サクソフォン)、橋本晋哉(チューバ)、黒田亜樹(ピアノ)、神田佳子(打楽器)、有馬純寿(エレクトロニクス)
12 稲森安太己《ピアノ·エチュード第2番~ギョーム·デュファイへのオマージュ》(2023)
黒田亜樹(ピアノ)
13 ギョーム·デュファイ ミサ曲《幸いなるかな天の女王》による即興
菅沼起一(リコーダー)、橋本晋哉(セルパン)、有馬純寿(エレクトロニクス)
14 夏田昌和《デュファイのいる風景》
バリトンサクソフォン、チューバ、マリンバ、ピアノのための。サウンドファイル付き(2024 委嘱初演)
大石将紀(サクソフォン)、橋本晋哉(チューバ)、黒田亜樹(ピアノ)、神田佳子(打楽器)、有馬純寿(エレクトロニクス)夏田昌和(指揮)
照明:菅勝治
舞台監督:鈴木英生(有限会社カノン工房)
舞台スタッフ:長谷川啓
音響スタッフ:有限会社オアシス
打楽器運搬:有限会社ハリーケン
ピア/調律:田辺俊彦(スタインウェイ·ジャパン株式会社)
フライヤーデザイン、ロゴマークデザイン、写真撮影:松蔭浩之
記録映像:後藤天
東京現音計画
制作:福永綾子(ナヤ·コレクティブ)
制作補:鈴木桃子(合同会社モモ·カンパニー)
協力:BONKAN STUDIO YOKOHAMA、黒田崇宏、八木大輔
ゲストの菅沼氏はプログラム制作から関わり、中世の記譜法やスタイル・コンポジション(様式作曲)についての勉強会もおこなったとの由。さらに、若手作曲家に呼びかけてアカデミーを開催、テーマとしたギョーム・デュファイの音楽を読み込み、新たな創作に繋げてもらったという。非常に丁寧な準備を経ての演奏会である。
プログラムは、デュファイ作品やグレゴリオ聖歌と、デュファイにまつわる現代作品が交互に配されていた。
まず、現代作品についての所感。
永見作品…トゥッティからリコーダーとサックスのデュオに切り替わった部分、集結部近くのバス・リコーダーのソロはおもしろい。それ以外の部分は音数が少々多すぎると感じた。
内垣作品…2つの楽器のシンプルな掛け合いながら、心地よい緊張感があり、不思議と引き込まれる音楽だった。デュファイの音楽に虚心に取り組んだ成果かと思う。
麻生作品…サックスとチューバというチョイス、冒頭はタイトルの通り閉ざされた地下空間を想起させるような音が耳を捉える。後半はテンポが上がると同時に高揚感が生じ、おもしろく聴けた。
山田作品…冒頭から執拗に繰り返されるフレーズはわずかずつ表情が変化しておもしろく聴けたが、電子音響と器楽音の関係性が今ひとつ掴みかねた。
石田作品…器楽、エレクトロニクスに複数言語によるテクストの朗読、加えて作曲者が舞台中央で電灯を点滅させる、とさまざまの要素を重層的に組み合わせている。けれど、全体としての趣旨がわからなかった。
稲守作品…デュファイ作品のアイソリズムの箇所を用いたエチュード。異なるリズムを持つ3声部を1人の奏者でこなすという趣旨である。区切りごとにテンポが緩やかになる。それに伴って難度も増していくように感じた。
夏田作品…デュファイの名前の綴りによる音列やデュファイ作品を素材としている。エレクトロニクスはクロマティックに移行するハーモニー、そこへ器楽の急速で激しいフレーズが襲いかかる。全員の持ち味をよく活かす佳品であった。
デュファイのしらべは、一見典雅なようでいて、よく聴くと非常に抽象的な部分があるように感じる。そのせいか現代楽器で奏しても唐突感がない。また、リコンポーズというプロセスを経ても、元の音楽の風合いが損なわれない。それだけの強さがあることがわかる。
菅沼氏のリコーダーは、古い音楽でも新しい作品でも、ブレることのない芯が通っていると感じられる。どの曲の演奏も説得力がある。
今回の菅沼氏との共演を聴いて、このユニットはこういう協働が非常に良い結果に繋がると感じた。5名のメンバーはいずれも押しも押されもしない名手で、特に新しい音楽に通じた得難い音楽家たちである。加えて、デュファイ作品を聴きつつ、メンバーの音楽に対する姿勢の柔軟さとオープンさを改めて感じた。今回のように優れたゲストを迎えることで、相乗作用が生じ、5名のメンバーもゲストも一層輝きを増す。
プログラム・ノートで橋本氏は、「古楽ではアマチュアからプロフェッショナルまで、研究と実践の両面において境目のない層を形成している」ことを指摘する。他方、「現代音楽においては、その実践の困難さもあるかもしれませんが、作り手、演奏家、聴き手の間の相互の行き来に関してはそれほどの積極性はないように見受けられます」と述べている。わたくしも現代作品を好む聴き手の一人として、斯界の課題の一つがこの点であると感じている。たしかに現代曲の領域で古楽のような状況を実現していくのは極めて困難だと思う。一般向けと言っても「普通の」クラシックを取り上げるアウトリーチとは、かなり違った手法が必要だろう。ともかく、何らかの手を打たなければ、閉塞した状況は進むばかりである。
(※余計なことながら、個人的な見解を記すと)現代曲も、現代美術も、作者と鑑賞者が同じ場を共有している(少なくとも属する場が何らかの形で連続している)ことは貴重だと思う。時代の空気感、社会に対する意識、価値観を共有するプロの表現者が、この時代をどう捉え、描くのか。それを観て、聴くことで社会に対する認識が改まるかもしれないし、場合によっては生き方さえも変わる可能性がある。なんともスリリングだと思う。「なんかちょっと変」「わけわかんない」と敬遠してしまうのはあまりにも勿体無い。是非とも多くの人に目を向けていただきたいと望む。
菅沼氏との協働、若手作曲家を対象としたアカデミー開催は、現代曲「界隈」の枠を突き崩す試みとして有用だったと思われる。まだまだ道のりは遠いと思われるけれど、今回のような試みを是非続けていただければと思う。(2024年7月10日 すみだトリフォニーホール小ホール)