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「流転する抽象 ギターと室内楽」

出演
松井亜希(ソプラノ)
岩瀬龍太(クラリネット、バス・クラリネット)
近藤圭(狩猟ホルン)
土橋庸人(ギター、エレクトリック・ギター)

プログラム
渡辺俊哉:複数の声(ギター独奏)(2021)
渡辺俊哉:夜の空(ソプラノ、クラリネット)(2020/2023改訂初演)
松岡貴史:"den Krieg?(戦争を?)"(2023年委嘱新作)(クラリネット、エレクトリック・ギター)
渡辺俊哉:低音地帯(バス・クラリネット独奏)(2023年委嘱新作)
渡辺俊哉:石の花(ソプラノ、ギター)(2023年委嘱新作)
木下正道 :Le ciel/La terre(空/大地) XI(狩猟ホルン、エレクトリック・ギター)(2023年委嘱新作)

ギタリスト土橋庸人氏の企画によるコンサート。意外な楽器との組み合わせにより、ギターの更なる可能性が示されたと感じる。

渡辺作品「複数の声」…プログラム・ノートには「ハーモニクスを単に効果音として使うのではなく、通常奏法との対位法的な線として考えるという発想があった」と述べる。前半はハーモニクスと非ハーモニクスの音が入り混じり、平面的に聴こえた。後半、少しメロディアスなフレーズがあらわれたあたりから、2種類の音による層が明確になり、おもしろく聴けた。

渡辺作品「夜の空」…松井氏の柔らかで、かつニュアンスのくっきりした声に魅せられる。曲は、クラリネットとさらに一体感がもたせられるとなお聴きごたえがあったのでは。

松岡作品…エレクトリック・ギターは基本的には弱奏で、夢の中を彷徨うような、非現実な音を紡いでいく(フェルドマン「マゼラン海峡」でのこの楽器の音を思い出す)。クラリネットの音によって現実に引き戻されるような感覚があった。中盤からはやや単調に感じられたのが惜しまれる。

渡辺作品「低音地帯」…限定的な素材によりきっちりと構成されており、飽きさせない。プログラム・ノートには「単旋律を奏でる楽器のためのソロ曲において、多様な聴き方を導き出すにはどのようにしたら良いかということを、この曲の作曲に際して常に考えていた」とある。が、構成を追うほうに耳がとられがちで、残念ながら聴取を効果的に誘導してもらっていると感じられるところまでは至らない印象。

渡辺作品「石の花」…ここでも松井氏による魅力的な歌唱が光る。大木潤子氏によるテキストは不思議な味わいを湛えている。個々の単語ごとに歌い方のニュアンスが巧みに制御されていて、聴く者は詩の世界に迷い込んでいく。曲は、小さな声でもことばが聴き取りやすく、一語一語を大切に扱いながら音を当てていると感じられる。ギターの音の配置も効果的。

木下作品…バルブを持たない狩猟ホルンと、エレクトリック・ギターというミスマッチ。狩を合図するホルン、のたうつサウンドを繰り出すエレクトリック・ギターは、いずれも遠慮のない音を放つ点で、時代を超えて通い合うか。両者が咆哮し合う箇所も聴きごたえがあったが、ギターの和音の中からホルンが浮かび上がる部分も美しい。ブルオタを自認する作家らしく、曲の終わり近くで「第7番」冒頭のフレーズが引用された。近藤氏の快演に拍手。

いずれも手練の奏者たちで、味わい深い音たちを楽しむことができた。土橋氏の演奏は実に繊細で、深い読み解きがあることが伝わる。(2023年6月8日 日暮里サニーホール)

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