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SPiCE quartet デビューコンサート

■プログラム
・エベルト・バスケス [1963- ] /3つの夢 [2022]
・石川 潤 [1991- ]/異界の地より [2023] 世界初演
・ヤニス・クセナキス [1922-2001]/ディプリ・ジーア [1951]
・ディラン・ラルデリ [1979- ]/
 影響の軸道 [2014]  
 影響の軸道Ⅱ [2023] 世界初演
・ アルベルト・ヒナステ [1916-1983] /12のアメリカ風前奏曲 Op.12 [1944] より 

■SPiCE quartet
本條 秀慈郎 三味線
原田 亮子 ヴァイオリン
佐藤 翔 チェロ
佐藤 紀雄 ギター

主催:SPiCE quartet 
共催:hall60(ホール・ソワサント)  

本條秀慈郎氏の呼びかけで結成されたアンサンブルのデビューコンサート。会場のhall60がある原宿の裏通りに足を踏み入れると、そこは大通りの喧騒が嘘のような静けさだった。

ヴァスケス作品…1曲目は「第九」第1楽章のふしを利用している。2曲目は「ラビリンス」と題され、ブリティッシュ・ロックへのオマージュかとおぼしいノリの良さ。終盤はハンド・クラッピングも交え、この作家らしい快速で音楽が展開する。ヴァイオリン・チェロの弦を弾く金属的な音は、三味線と響きがとても近く感じられた。3曲目は漱石の「夢十夜」によるものという。

石川作品…1曲目(田植え歌)は親しみやすいふし。2曲目(怪物の子守唄)はちょっと不気味な子守唄、3曲目(“死神があなたを見ている”)は鬱々とした音楽。そして、テンポよく進む4曲目(カカシたちの踊り)。

クセナキス作品…若い頃に書かれたヴァイオリン・チェロの二重奏曲。民族音楽的な曲想、リズムの際立つ、舞曲のような作。のちの作品で噴出する激しさの片鱗がすでに見える。

ラルデリ作品…1曲目は主として三味線・ギター/ヴァイオリン・チェロという2つの声部からなる。後者が長めの音を持続させ、その上で前二者がゆっくり動く構成。適度な緊張感の中、全体に静かに進行していく。2曲目はテンポが上がり、短い音が飛び交う。三味線の鋭い響きとちょうど対峙するようにほかの3楽器も硬質な音を作り出していて、一体感がある。

ヒナステラ作品…全12曲のうち7曲をこのアンサンブルの編成用に編曲。三味線を爪弾いたり、トレモロを奏したりする部分がほかの三者とよく馴染む。激しい曲でも、静かな曲でも、原曲の持ち味がよく活かされていたと思う。

前半では、ヴァイオリン・チェロ・ギターは互いによく馴染むのだけれど、三味線の音が浮き上がりがちで、ほかの三者と溶け合いにくく感じた。このようにして1対3のような関係性になってしまうと、アンサンブルとしての維持が難しいのではという危惧さえ覚えた。

なぜ前半の2作で三味線が浮き上がってしまうかというと、一つには、三味線が弾き始めた時、この楽器にある程度馴染んでいる耳には、洋楽器とは別の文脈が立ち上がったからではないかと思う。ヴァスケス作品、石川作品では、三味線の使い方があたかも所与のものとされているかのようで、弾かせている音型も、定型かそのバリエーションの範囲内にあった。

これに対して後半のラルデリ作品では、三味線という楽器をフラットに捉え、定型を離れて一旦解体していくような使い方をしていたのではないかと思う。ヒナステラの編曲でも、その辺りが意識されていた。三味線が定型句から解放され、単に特徴のある音の出る弦楽器として捉え直されれば、伝統に連なる文脈に限定されてしまうことなく、さまざまな楽器と協奏する可能性が開けるはずである。

終演後に挨拶に立った本條氏は、三味線は本来アンサンブルを形成する楽器であるというようなことをちらりと話しておられた。また、このアンサンブルでは、編成に合った新しい作品を委嘱していきたいとのことだった。ぜひ三味線の新しい扱い方をどんどん開拓してほしいと思った。

ヴァイオリンの原田氏の音が素晴らしい。パワフルでありつつ繊細で、色々な表情を持っている。佐藤氏のチェロも非常に安定感がある。叙情的なふしも、いかにも現代作品らしい厳しい音も、安心して聴ける。佐藤氏のギターはいつもながら切れ味が鋭い。本條氏は、真摯な演奏で、さまざまなことに躊躇いなく柔軟に挑んでいく姿勢であることが明確に感じられた。今後の活動に注目したい。(2023年11月3日 原宿・hall60)

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