第33回 芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会 & サマーフェスティバル En-gawa
【第33回 芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会】
第31回芥川也寸志サントリー作曲賞受賞記念
サントリー芸術財団委嘱作品
桑原ゆう(1984~ ):『葉落月の段』(2023)世界初演
尺八:黒田鈴尊
三味線:本條秀慈郎
第33回芥川也寸志サントリー作曲賞候補作品
田中弘基(1999~ ):『痕跡/螺旋(差延 II)』オーケストラのための(2021~22)
向井 航(1993~ ): 『ダンシング・クィア』オーケストラのための(2022)
話し手:塩澤糸
松本淳一(1973~ ):
『忘れかけの床、あるいは部屋』
スコルダトゥーラ群とオーケストラのための(2016/18/22)
指揮:石川征太郎
新日本フィルハーモニー交響楽団
候補作品演奏の後、公開選考会
(司会:白石美雪)
選考委員(50音順):稲森安太己、小鍛冶邦隆、渡辺裕紀子
協力:(一社)日本作曲家協議会/(一社)日本音楽著作権協会/(特非)日本現代音楽協会
桑原作品…独奏楽器とオーケストラのバランスが実に巧みで、後者が前者を塗りつぶしてしまうことがない。三味線の音色をトランペットが模するところなどはおもしろい。しかし、プログラム・ノートに、西洋楽器と邦楽器が体現する「各々の音楽を音楽たらしめる「いのち」を見きわめ〜」とあるのだけれど、「いのち」とは何をいうものなのか、作品に耳を傾けていっても、最後までよくわからない。三味線が強奏で弾き始めるタイミングに打楽器がアクセントを添えるパターンが何度も出てくるが、変わり映えがせず、「またか」などと感じてしまう。独奏のお二人は真摯な演奏を繰り広げていた。
田中作品…プログラム・ノートがあまりに難解。題名の「痕跡」(trace)は「痕跡」「辿る」のダブル・ミーニングと言うのだけれど、「痕跡」なるものが音楽の中でどう具現化されるのか、文章からは見当がつかない。曲を聴いてみても明確には把握できない。中ほどで、細かい(16分音符か)刻みが打楽器から周囲に伝播していく箇所があり、このことを言うのかと思ったけれど、その後は「痕跡」ー「辿る」の関係性が掴めなくなった。
向井作品…「アメリカ・フロリダで起きたゲイナイトクラブでの銃乱射事件および、ヴォーグなどのダンス・ムーブメントを含めたクィアのアクティビズムをテーマに」(作曲者によるプログラム・ノード)据えた作品。トラメガを構えたナレーターが、種々の短いテクストを英語で読み上げていく。こういう構成だと、どうしてもテクストのほうに意識が持っていかれてしまう。そこで、できる限り器楽音に意識を集中するよう努めながら聴いたのだけれど、曲そのものは比較的平明というか、正直陳腐で、音楽自体が思想を語る水準には達しているとは思えない。
松本作品…スコルダトゥーラ(変則調弦)群として、小さい弦楽アンサンブルがステージ上手、普段ならヴィオラの陣取る場所に配置かれる。このグループは、終始オーケストラ本体とは別行動で、ゆっくりと移り変わる音型をひたすら繰り返す。冒頭、同群とオーケストラ本体が同時に演奏を始めた際の響きは実におもしろかった。だが、その後の展開部分は、特にオーケストラ本体の書き振りが、手慣れていて破綻はないものの、いかにも型通りで残念。スコルダトゥーラ群の動きを、中ほどで金管楽器群、終結部近くでは木管楽器群を中心に模倣するあたりは興味深く聴けた。両群がもっと有機的にやりとりする場面があればさらに良いのでは。
(単なる愚痴ながら)候補者お三方のプログラム・ノートがいずれも難解。文章の形で示すのだから、もう少し鑑賞の手助けになるようなものを提供してほしい。(サントリーホール 大ホール)
小ホールでの催しの時間となったので、公開審査は聞かずに移動(受賞者は向井氏に決まったとの由)。
【サントリーホール サマーフェスティバル 2023
ザ・プロデューサー・シリーズ 三輪眞弘がひらく ありえるかもしれない、ガムラン プロジェクト型コンサート En-gawa】ガムラン・ドゥグンによる現代曲
演奏:パラグナ・グループ
舞踏:浅野瑞穂 浅野瑞穂舞踏研究生
ルー・ハリソン:ベテイ・フリーマンとフランコ・アセットのための「セレナーデ」(1979)
ジョン・ケージ:「俳諧/Haikai」よりNo.1, No.2, No.5
藤枝守:組曲「ガムラン曼荼羅Ⅰ」(2020)
ハリソン作品は題名に相応しい、何とも優しい響きでほっとする。素朴な笛の音が良い。
ケージ作品は、俳句の五・七・五の拍数を音の数に当てはめた作品。静謐さを味わう。
藤枝作品は、5月に自由学園で聴いたのとは印象がやや異なる。ことばにしにくいのだけれど、より"親密な"響きがするとでもいうべきか。KITAによる四阿風の構築物、基本的に出入り自由な空間であることが大きく作用したのだと思う。全編にわたって穏やかだけれど、ごく繊細な曲の味わいがより鮮明に感じ取れた。浅野瑞穂氏率いる舞踊グループの舞も非常にたおやかで美しかった。(サントリーホール ブルーローズ)