アンサンブル・ノマド 第78回定期演奏会"プシュケー・息" vol.1:吹奏の風
<プログラム>
エドガー・ヴァレーズ:オクタンドル(1923)
山下真実:5番の香水(2022)
クリストバル・ハルフター:フルートと弦楽六重奏のための協奏曲(1982)
Flute Solo:木ノ脇道元
藤倉 大:チューバ協奏曲 ‐ 室内楽(2016/2017, 2022)~世界初演
Tuba Solo:橋本晋哉
江村哲二:奇妙な誘惑 ‐ 木管三重奏のための(2005)
星谷丈生:刹那の慣習 IIe -時の分割について- (2023)~ 世界初演
Clarinet Solo:菊地秀夫
久木山 直:木管五重奏のためのRAMO 枝(2022)
<出演者>
Ensemble NOMAD
木ノ脇道元(pcc/fl/A-fl) 菊地秀夫(cl) 野口千代光(vn) 花田和加子(vn/va) 甲斐史子(va) 菊地知也(vc) 佐藤洋嗣(cb) 中川賢一(pf) 宮本典子(perc) 佐藤紀雄(cond)
Guests
橋本晋哉(tub) 林 憲秀(ob) 福士マリ子 (fg) 笹崎雅通(c.fg) 萩原顕彰(hr) 佐藤秀徳(tp) 村田厚生(tb) 川口静華(vn) 朝吹 元(vc)
主催:一般社団法人 アンサンブル・ノマド
「ノマドのフルート奏者木ノ脇道元とクラリネット奏者菊地秀夫を主軸に管楽器に焦点を当てたプログラム」とのこと。
ヴァレーズ作品…先鋭的だけれど、常にどこか柔らかな不思議な音響。終盤の金管群はもっと尖った音でもよかった。
山下作品…前半は2つの楽器の音がほぼ等質的に聴こえる。フルートがクラリネットにかなり寄せているのだと感じた。この2楽器の組み合わせからは予測できなかった響きによって、ふわふわと捉え所がなく、しかし魅力的な音世界が展開される。短くユニゾンを奏してのちは、フルートはピッコロ、アルト・フルートへの持ち替えもあり、音域も広がって、本来の対照的な音を聴かせる。曲の表現に幅があり、2人の巧みな演奏も相まって最後まで飽きさせない。
ハルフター作品…木ノ脇氏が手堅い演奏を見せる。冒頭のアルト・フルート、それに続く弦楽器のセンツァ・テンポの箇所は緊張感があっておもしろかった。しかし、だんだん同じようなシークエンス繰り返しあらわれるようになり、飽きてくる。ソロ、アンサンブルとも技術を要するとおぼしいし、アンサンブルの雲海のような柔らかな響きは魅力的なところもあるが、曲は全体として冗長。
藤倉作品…チューバの息の長いふしが終始アンサンブルを牽引していく。アンサンブルの中でも絶えず細かなやりとりがあり、実のある「協奏」である。全体に「藤倉節」が確立されていて、聴き応え十分ではあるけれど、このまま落ち着いていくんだろうか、などと思われなくもない。難度の高そうなシークエンスもこのグループのレギュラー/ゲスト・メンバーが労せずこなしていて楽しめる。何より、橋本氏の柔らかく、味わい深い音色をじっくりと味わうことができた。
江村作品…三者が長い音を重ねていく部分は不思議な儀式のようで惹きつけられる部分もあったけれど、全体としては古典的な木管三重奏の域を越えることなく終わっていく。
星谷作品…作曲者によるプログラム・ノートには次のように記されている。
「作品はソロ・クラリネットパートの旋律によって常にリードされる。その旋律線はどこかで聴いたことがあるようなのどかなcliché(常套句)の断片がつなぎ合わされ構成されている」
伝統的調性音楽の、クライマックスの音の直前までが切り取られて奏される。いわゆる寸止めである。"Everything Everywhere All at Once"での、ごく短いシーンが次々に切り替わっていく中へ放り込まれたかのような感覚。西洋音楽に慣らされた耳はその都度律儀に解決音を求めては裏切られる。で、その先は…と思うまもなく曲は終わってしまう。菊地氏が力演。
久木田作品…冒頭のパルス音が全体のテンポを支配する構成か。ごく親しみやすいふしが綴られていくのだけれど、開始部からしばらくは不意に変拍子があらわれ、ずずっと足を掬われるような奇妙な感覚がある。けれども、曲が進んでいくと躓く感じが薄れてしまったのが残念。曲そのものの要因というよりは、奏者に疲れが出たように感じた。
盛りだくさんのプログラムを聴かせていただけるのはありがたいのだけれど、今夜のプログラムはサービス過剰だったと思う。聴いているだけのこちらがいささか苦しかったのだから、奏者はなおさらのはず(最後の久木田作品など)。(2023年6月1日 東京オペラシティ リサイタルホール)
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