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Contemporary Piano Showcase #2

夜公演プログラム
◯フランチェスコ・フィリデイ:トッカータ(1996) わらべうた(2011)
◯マウロ・ランツァ:チャプスイ(2005)※プリペアドピアノ版世界初演
◯ガブリエレ・マンカ:メカニカル・エチュード(2004-7)より抜粋 「1.心電計」「2.色覚異常」「6.変奏」「7.白熱灯」「8.イギリスの郵便馬車」
◯杉山洋一:翔る(2007)
◯久保哲朗:廃墟に浮かぶ記憶(2024, プリペアドピアノ)※委嘱新作、世界初演
◯ステファノ・ジェルヴァゾーニ:プレ(2008-15, ピアノ/トイピアノ)※全曲版日本初演

出演者
ピアノ:篠田昌伸
ゲストコンポーザー:杉山洋一、久保哲朗

主催:Contemporary Piano Showcase(制作:台信遼)
後援:日仏現代音楽協会
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京[東京芸術文化創造発信助成]

現代イタリアの作曲家と、イタリアにゆかりのある邦人作曲家の作品を集めたリサイタル。別プログラムによる昼夜2公演のうち、夜の部を鑑賞。

フィリディ作品…「トッカータ」は鍵盤や筐体を擦ったり叩いたりする音のみ。ペダルによる微妙な音色の変化が興味深い。
「わらべうた」…単純なフレーズがどんどん変化していく。部分的に施されるプリパレイションが効果的。

ランツァ作品…原曲はツィンバロンのための作品とのこと。アルミフォイルなどによる簡易なプリパレイションによって、おもしろい響きが導き出されている。オリジナルも聴いてみたい。

マンカ作品…前半では最も興味深く聴けた。「練習曲」と銘打つだけあって、短い曲ごとに特色ある楽想がみられ、多様な弾き方と音色が要求される。「白熱灯」の高音部の弾けるような粒の揃った音たちなどは舐ってみたいようにさえ感じられた。肉感的といっても良い、聴き手の感覚に直に訴えてくる魅力的な音たちだった。

杉山作品…最高音域での連打を含む急速なパッセージが美しく、トイピアノのように聴こえる瞬間もある。タイトルの「翔ける」さまを象徴するものかと想像した。冒頭に聴こえる素朴な旋律は、スペインの歌だろうか。叙情的な作。

久保作品…高音部と低音部の一部にのみシンプルなプレパレイション(ボルト、割り箸、練り消しゴム)が施されている。高音部の煌めくような細かい音によるパターンが繰り返しあらわれ、印象的。冒頭からしばらくは、プリパレイションを施した音域と施さない音域が分離・対比させられていて、少し紋切り型に聴こえた。が、半ばあたりで、静かに和音が弾かれるあたりから俄然おもしろくなった。その後の、プリパレイションが施されていない音から、施された音にかけてのアルペジオ風のフレーズが美しい。以降、性格の異なる複数の「フィギュア」の姿が明確になり、聴き応えがあった。

ジェルヴァゾーニ作品…6曲の小品をおさめる3つの曲集からなる。3曲ごとがひとまとまりで、変奏の関係にあるという。少しだけ込み入った構成を持ち、緊密に織り合わされている。第2集の前半3曲はトイ・ピアノによって奏される。シンプルながら、凝った構成。個々の音がよく磨かれていることがわかる。が、展開される音風景は大きな変化が無く、最後のほうはやや単調に感じられた。

第1回に続き、篠田氏の豊かな音楽性と高い技術を堪能した。興味深い作品を集める能力は、氏がピアニストであり、作曲家でもあることの帰結だろう。昼の部も聴きたかった。

後半の初めに篠田氏、久保氏、杉山氏によるトークがあった。その中で、現代イタリアの作曲家たちの作品の特徴として、ソナタ形式などによりモチーフを展開させるよりも、素材そのものを活かして曲を創る傾向が挙げられるのではないかという話があった(これは久保氏、杉山氏の創作にも引き継がれていると思う)。今回集められた作品たちは、その傾向が明確にみられるものばかりだったと感じる。一つひとつの音や和音がよく吟味されていて、味わいがある。マンカ作品に感じた肉感性などはその端的な例ではないか。ピアノらしいと感じられる音。もちろん篠田氏の巧みな演奏によるところも大きいけれど、いずれも作品自体がこの楽器の特性をよく抽き出しているのだと考える。一方で、ジェルヴァゾーニ作品のように作品設計にも工夫があり、構成上のバランスが巧みである。かの国の音楽シーンに注目してみたいと思った。(2024年11月24日 両国門天ホール)

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