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B→C バッハからコンテンポラリーへ266 河村絢音(ヴァイオリン)

出演
河村絢音(ヴァイオリン)
[共演]佐原 洸(エレクトロニクス)*

曲目
P.ブーレーズ:ヴァイオリン・ソロのための《アンテーム1》(1991/92)
青柿将大:ヴァイオリンとエレクトロニクスのための《Soli 2》(2023)*
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 ニ短調 BWV1004
S.J.ブロンドー:アトラスⅡ ─ いまを作りし過去を彼らは背負う(2019)*
坂田直樹:ヴァイオリン独奏のための《水を縫う》(2024、河村絢音委嘱作品、世界初演)
E.ニュネス:アインシュピールングⅠ(1979/2011)*

バッハの有名作に、フランス現代、およびフランスに学んだ邦人作家の作品を取り合わせたプログラム。河村氏が今年リリースしたアルバムのタイトルにもなっている「Le Violon augmenté 拡張するヴァイオリン」がテーマとして掲げられている。

ブーレーズ作品…残響など響きが繊細かつ緻密に設計されている曲だと感じた。これこそ「拡張」と言える。特殊奏法も多いけれど、難なく、むしろ楽しみながらこなしている様子が印象的。

青柿作品…ヴァイオリンはポルタメントを多用してうねうねと歌う。そこに煌めくような電子音が絡んでいくさまがおもしろい。生音の細かいニュアンスに対してエレクトロニクスをさらにインタラクティブかつ敏感に反応させる余地があるかと感じた。

バッハ作品…思いのこもった、真摯かつ丁寧な演奏だった。弾き方が思いのほか優しくて少し驚く。アルマンドやクーラントあたりは、もっと骨っぽい音でも良いと感じた。シャコンヌは中間部のクライマックスや、最後のバリエーションに至る道筋など、より構成的だと、さらに聴き応えがあったのでは。

ブロンドー作品…ヴァイオリンのパートは冒頭から非常にエネルギッシュな音楽。バッハもこれくらい振り切った弾き方でもいいのに、などと思った。乾いた電子音が味わい深くおもしろかったけれど、作品全体としてはさほど新味が無く、印象が薄い。

坂田作品…高度に技巧的。さまざまな奏法が繰り出される。4つの部分から成るとのことなのだけれど、特殊奏法と、各部分で志向している表情や性格とがあまり有機的に結びついていない印象だった。結果として部分間の差が明確でなく、全体が奏法や趣向の一覧のように感じられてしまったのが残念。また、同じく無伴奏のブーレーズ作品は、音一つずつを聴こう/聴かせようという意思が明確なのに対し、本作はそういった方向性が希薄なように感じた。

ニュネス作品…素材であるヴァイオリンの音をほぼそのまま、あるいは控えめな変形にとどめながら用いていた。この楽器の響きを「拡張する」という趣旨には、今回の3つのエレクトロニクス作品の中では最も相応しかったと思う。凝った音響加工ではなさそうだけれど、ヴァイオリンの音そのものをじっくりと味わうことのできる展開の仕方だった。やや長く感じられる点が惜しまれる。

アンコールにルイス・ナオン「カプリスⅠ」。

河村氏の、巧みな特殊奏法の数々が披露され、現代作品のスペシャリストの面目躍如といった感があった。同時に、力強い響きから、ごく柔らかな音色まで表現の幅の広さがよくあらわされていた。佐原氏のサポートも見事。今後の活躍を追いかけたい。(2024年11月12日 リサイタルホール)

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