【対談note】拡がる音声広告市場、その可能性とは?~前編~|Spotify 藤井哲尚×Modern Age 高野修平
近年、急速に拡大し続けている音声広告市場。その一方で、音声広告の存在を身近に感じられる機会は、決して多いとは言えません。
そんな音声広告市場の現状や予想される未来、そこに向けた取り組みについて、スポティファイジャパン株式会社 広告事業統括 藤井哲尚氏と、株式会社トライバルメディアハウス Modern Age/モダンエイジ事業部 レーベルヘッド 高野修平が対談を行いました。今回は前編として、日本や世界各国の音声広告市場の現状を紐解いていきます。
スポティファイジャパン株式会社 広告事業統括 藤井哲尚氏
1999年より 2017年まで、株式会社博報堂 および株式会社博報堂DYホールディングスにて、統合コミュニケーション・デジタル・グローバルビジネス・事業開発の領域で活動。2017年10月より現職にて、Spotifyのフリービジネスの統括を担務。人の生活活動に関心を持ち、哲学・文化人類学・経済学・経営学などを修めつつ、フィールドワークも続けている。最近は、開墾と登山が趣味。
株式会社トライバルメディアハウス Modern Age/モダンエイジ事業部 事業部長/レーベルヘッド
トライバルメディアハウス内にある日本初のブランドマーケティングと音楽マーケティングを融合させたマーケティングレーベルを設立。ナショナルクライアント、テレビ局、音楽配信会社、映画配給会社、レコード会社、アーティストといった幅広いエンターテインメント業界を支援している。最新刊は『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング』M-ON番組審議会有識者委員、尚美学園大学非常勤講師。
日本の音声広告市場は第1コーナーに差しかかったばかり
高野:音声広告市場について、まずは日本の現状から話を始めたいと思います。
藤井:そうですね。陸上競技でいえば、スタートして第1コーナーに差しかかったところでしょうか。規模も2019年は10億円足らずで、2020年は10億円から15億円程度でしょう。しかし、成長のスピードは速く、2026年には400億円程度にまで伸びるといわれています。なぜ、そうした予測が成り立つかというと、先行しているアメリカでは、市場が生まれて参入者が広がり、行動的なミレニアル層にフィットしたコミュニケーション手段として増え、市場が急激に成長したからです。現在では2,000億円から3,000億円規模のグローセグメントになっています。
高野:私の印象も同じです。日本の音声広告市場は生まれて間もない段階ですが、当初の音楽レーベルから動画、リッチコンテンツへと広がりつつあります。
藤井:音楽レーベルからラジオ系の広告主、消費財などの業界へと、すでにプレーヤーは広がっていますから、成長のスピードは速いと思いますよ。
高野:音声広告は伸びる分野であることは確かですが、広告はあくまで手段であり、目的ではないので、ただ伸びればいいというものではありません。それに、音声広告は何でもできる魔法の杖ではなく、強みも弱みもあるので、単独で用いるのではなく、SNSや他のデジタルメディアと組み合わせる、クロスメディア戦略が必要だと思います。
藤井:ラジオには新聞、テレビにはラジオというように、それぞれの時代の新しいメディアは、それまでのメジャーなメディアとの組み合わせで広がりましたからね。音声広告を動画やテレビなどの広告に組み合わせて、その特性を生かすことで、広告としての効果がより高まるはずです。第2コーナーに向けて、そうしたものをつくっていく必要があります。
文化の違いが個性となって現れる世界各国の音声広告市場
高野:日本はこれから第2コーナーに向かうわけですが、先行しているアメリカの状況はどうでしょうか?
藤井:アメリカでは毎日多くの人が自動車で移動していて、必然的にラジオを聴く時間が長く、身近なメディアとして、若い世代も含めて浸透しています。ラジオは今も有力なメディアの一つです。ラジオ自体も、インターネットラジオ化など進化を続けています。また、コネクテッドスピーカーなどを通じたインタラクティブな音声広告といったものも、すでに生活の中に入ってきています。
高野:アメリカの音声広告市場は、売り上げもイノベーションも、一歩も二歩も先を行っているというわけですね。
藤井:ドイツもおもしろいですよ。やはり自動車で移動する人が多いので、ラジオがメディアとして強く、ポッドキャストやオーディオブックの利用も活発です。また、イギリスやオーストラリアでは、データを活用した音声広告づくりが進んでいます。つまり、その人が今、何をしていて、どんな音楽が好きで、といったことをデータから理解した上で、広告をつくるわけです。耳を使ったコミュニケーションは、各国で広がっていて、やがて日本もそうなると思います。
高野:韓国はどうです? K-POPのマーケティングの方法や、SNSの使い方などには ユニークなものがあるので、興味がありますね。
藤井:たしかにそうですね。ただ、音声広告のマーケットとしては、まだこれからです。ユニークという点では、同じアジアのインドネシアのポッドキャストの使い方が注目株ですね。YouTubeやFacebookなどと同じように、ポッドキャストでメッセージを発信する人が増えているんです。一人ひとりのオーディエンスは少ないのですが、束ねると大きな群れになるわけです。
音声広告を日本に広めるために欠かせない事例とヒーロー
高野:アメリカ、ドイツ、イギリス、インドネシアと、文化の違いが音声広告や音声メディアにも現れていておもしろいですね。これから成長していく日本としては、各国のいいところを選んで取り入れていくことが必要だと思います。ただ、日本人には石橋をたたいて、周りを見渡し、みんなで一緒に渡りましょうというところがあるので、どうしても時間がかかってしまいそうです。
藤井:TwitterやFacebookなども、浸透するまでには時間が必要でした。Twitterが受け入れられるきっかけになったのは、災害時の情報発信に力を発揮したことだったので、社会や生活に役立つ事例をつくることが、音声広告にも欠かせません。
高野:さまざまなデジタルメディアの登場などで、これまでのマーケティング手法がなかなか通用しなくなってきていて、音声広告を含めて新しいメディアの活用が必要なのは明らかです。ですから、音声広告をやってみたいというフロンティア精神のある企業や社員を応援することは、非常に重要だと思っています。
藤井:事例とともにヒーローをつくることが大切ということですね。
▼Spotify 広告事例
https://spotifyforbrands.com/ja/ad-experiences/
高野:しかも愚直にやることで、音声広告のキープレイヤーを増やすことにつながると思います。
藤井:「着メロ」が流行したことからもわかるように、日本人は生活の中に音を足すことを好むというか、少なくとも抵抗感は小さいわけですから、日本には音声メディアが育つ下地は十分にあります。また、文字情報はうっかりすると炎上しますし、そうならないように編集していくと、当たり障りのないおもしろくないものになってしまいがちです。それに対して音声による情報は、意識して聴かないと出合えないものなので、炎上することも少なくなるという特性もあります。
高野:耳から入った情報は残るので、音声広告は記憶させる力が強いわけですね。メロディが頭に入っていればカラオケで歌えるけれど、楽譜を見ても歌えませんからね。
音声広告の特性とは素直にメッセージを言えること
藤井:最近、あるホラーコンテンツを聴いたのですが、夜中だったこともあって、思った以上に怖く感じました。なぜ、怖かったかというと、効果的な音声演出がなされていたからなんです。音声には気持ちに働きかける力が強いと改めて実感し、音声広告が重視したいポイントだと思いました。もうひとつ大切に考えたいのは、音声広告は素直なコミュニケーションに向いているということです。
高野:どういうことですか?
藤井:「CDを買ってね」「お店に来てね」と、ブランドがオーディエンスにしてほしいことを素直に言ったほうがいいんですよ。音声広告では、メッセージを躊躇せずに伝えることが重要で、ある意味で品のいい言い方は何を伝えたいのかわからず、耳に残りません。
高野:なるほど。目からウロコですね。買ってねとか、検索してねとか、ストレートに言ってもいいとなると、企業の担当者はうれしいと思いますよ。SNSをはじめ、他のメディアや広告表現では、宣伝らしくないようにするのが一般的ですから。
藤井:音声広告では、何かよさそう、雰囲気がいいといったように、宣伝らしさを感じさせないものは、逆に伝わりません。音声広告、動画、SNS、それぞれ得意技が違うということですね。
高野:繰り返しになりますが、だからこそ、何をどうしたいのかという目的をはっきりと決め、さまざまなメディアを組み合わせるクロスメディア戦略を用いて、目的の達成を目指すことが重要です。音声広告をはじめ、それぞれの特性に合わせて使っていく、いわば交通整理の役割が、私たちには求められています。
↓後編につづきます。