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小説ですわよ第3部ですわよ8-1
※↑の続きです。
青い空の下、天井が消し飛んだ屋敷の一室で、宇宙お嬢様が紅茶をすすってから呟いた。
「人間は、わたくしたちが思う以上にイカれた存在でしたわね」
「まさか、もうひとつのビッグアヌスを作ってしまうとは……」
御付きのギャルメイドが静かに頷く。宇宙お嬢様の顔が微かに曇った。人間は自分たちにはない、創造の力を持っている。そもそも宇宙お嬢様にとって、物質も精神も概念も『生み出すもの』ではなく『生まれ出るもの』であり『在り方を書き換えて調節するもの』であった。そしてホルモン焼きやマクドナルドを生み出ることは憧れであり、コンプレックスであった。
「ですが、今のわたくしは違う。ピンピンカートン探偵社とかいうクッソ下品な連中と出会ったことで創造という概念を新たに得たのです。だから創ってみようと思います」
「それはいったい……!?」
御付きが、おそるおそる宇宙お嬢様の顔色をうかがう。お嬢様は鼻息をふんと鳴らし、高らかに宣言した。
「小説ですわよ」
御付きも、小説がマルチアヌスに存在することは知っている。文字という最小限の情報だけで架空の出来事を面白く描き出す表現方法は、全マルチアヌスの中で最も洗練され、美しく優れていると考えていた。だから宇宙お嬢様の宣言が耳に入った途端、御付きの胸の奥は今までにない熱を帯びたのだった。
「お嬢様! どのような小説を書かれるのですか!」
「な、なんですの、急に元気になって……」
「いいから早く、お聞かせくださいっ!」
宇宙嬢様は御付きの熱意に気圧されるが、聞いてくれるのが嬉しかったのだろう。穏やかな笑みをたたえる。
「水原 舞というイカれ暴力女と、特異点――恒点観測員07214545号が出会い、ビッグアヌスを救うまでの物語です」
それは記録であって、小説ではない。御付きは理解していたが、お嬢様が創作の一歩を踏み出したことが何より喜ばしかった。創作とは「何かを書きたい」という衝動から始まり「読んでもらったという喜び」によって継続し「よりよい小説を書きたい」という前向きな欲望が、進化した作品を生み出すのだ。御付きは赤子がひとりで立った瞬間を祝福しようと思った。
「それでタイトルはどうしましょう?」
「タイトル?」
「小説の名前です」
「それなら、先ほど申し上げたではありませんか――」
『小説ですわよ』
赤子はひとりで立つどころか、産み出された瞬間らしい。だが御付きの祝福の念は何も変わらなかった。衝動が湧き出た瞬間こそ、創造の始まりなのだから。
「こんなオナニー書き散らかしてどうするの? 金にならねえぞ」
「やかましいですわね! あなたの住むアヌス69に宇宙テポドンぶちこみますわよ!!」
つづく。