きゅんぽぽ

きゅんぽぽ

マガジン

  • 小説ですわよの番外編ですわよ

    小説ですわよの番外編です

  • 日記

  • 小説ですわよ第3部ですわよ

    趣味小説の完結編です。

  • 小説ですわよ第2部ですわよ

  • 小説ですわよ

    趣味で書いた小説をまとめました。

最近の記事

  • 固定された記事

『小説ですわよ』第1話

あらすじ 「ホラホラホラ、轢くぞ轢くぞ轢くぞ轢くぞ」  ショッキングピンクのハイエースが、逃げる男の背中に激突した。衝撃と鈍い音が腹の底まで響く。 「マジかよ……本当にやりやがった」  水原 舞はそう呟きたかったが、口が開いたまま塞がらず、助手席で全身を固めることしかできなかった。  男は3メートルほど吹っ飛び、地面に倒れ伏したまま動かない。血は出ていないようだ。 「よーし」  轢いた張本人――森川 イチコは運転席のドアを開け、男のもとまで歩み寄っていく。舞も震える手でシー

    • 小説ですわよ番外編ですわよ5

      ※↑の番外編です。 『イチコとワンカップおじさん』  2022年10月3日 月曜日(仏滅)。  S県ちんたま市に隣接する戸渡市。森川イチコは戸渡を縦断する穴川の堤防に腰掛け、缶コーヒーのプルタブに指をひっかける。ピンピンカートン探偵社に入った今日の依頼はすべて終わっていたが、事務所へ帰る前に見たいものがあった。  微糖コーヒーを流しこむと、その熱さが体温に変わっていく。防災無線のチャイムは、数日前に『うみ』から『夕焼け小焼け』に代わっていた。 「これだからヤクザは困るッ

      • 【日記】約1年が経ちました

         ご無沙汰しております。  社会復帰してから約1年になりました。  結果から言うと、順調です。  元々、心身を病んで1年半ほど休んでおり、ちゃんと復帰できるのかが最大の懸念点でした。しかし周囲の助けもあり、大きな障害はなく仕事を再開することができました。ありがたいことです。  むしろ心身のコンディションは、現在がベストかもしれません。  驚くほどストレスが少なく、気持ちよく仕事ができる環境です。精神状態に影響されて体調も崩れることも今のところありません。  また、復帰時

        • 小説ですわよ第3部ですわよ8-3(完)

          ※↑の続きです。  舞はイチコから受け取ったイカ焼きを頬張る。雑に焦げた醤油の風味だが、これもまたお祭りのラフな味わいと考えれば許せた。珊瑚はたこ焼きが熱かったのだろう、小さく飛び上がった。それを見てイチコが「ハハッ」と短く笑うと、口の端から焼きそばの麺が吹き出た。舞が手ぬぐいでソースまみれの口元を拭ってやる。  と、後方で花火が2発、3発と上がり、空中でパラパラパラと散っていく。舞たちは腹の中も、耳の奥も、お祭りの空気で満たされていった。イチコが出店で食べ物を大量に買いた

        • 固定された記事

        『小説ですわよ』第1話

        マガジン

        • 小説ですわよの番外編ですわよ
          14本
        • 日記
          34本
        • 小説ですわよ第3部ですわよ
          41本
        • 小説ですわよ第2部ですわよ
          38本
        • 小説ですわよ
          14本

        記事

          小説ですわよ第3部ですわよ8-2

          ※↑の続きです。  ピンピンカートン探偵社の次期社長。舞は驚きこそすれ、困惑はしなかった。自分が社長にふさわしいなどという自惚れからではない(嘘だ、ちょっとあった)。返送者が激減し、軍団の半数と珊瑚が去った以上、探偵社の業務体制が何らか変化することは明白だ。最悪、綾子は事務所を畳むだろうと予測はできた。  窓の外では、アブラゼミがシュワシュワとパートナーを求めている。暑さがひどすぎて全滅したのかと思っていたが安心した。岸田が淹れてくれたアイスコーヒーの氷が、涼しげな音を立て

          小説ですわよ第3部ですわよ8-2

          小説ですわよ第3部ですわよ8-1

          ※↑の続きです。  青い空の下、天井が消し飛んだ屋敷の一室で、宇宙お嬢様が紅茶をすすってから呟いた。 「人間は、わたくしたちが思う以上にイカれた存在でしたわね」 「まさか、もうひとつのビッグアヌスを作ってしまうとは……」  御付きのギャルメイドが静かに頷く。宇宙お嬢様の顔が微かに曇った。人間は自分たちにはない、創造の力を持っている。そもそも宇宙お嬢様にとって、物質も精神も概念も『生み出すもの』ではなく『生まれ出るもの』であり『在り方を書き換えて調節するもの』であった。そして

          小説ですわよ第3部ですわよ8-1

          小説ですわよ第3部ですわよ7-8

          ※↑の続きです。  舞とイチコは屋敷の外に出た。宇宙お嬢様と御付きのギャルメイドが、未だスカラーサンシャインに疑念を持ちながら渋々ついてくる。 「お~い、マサヨさんたち~。戦い中止~!」  舞が大きく手を叩き、声を張り上げる。言わずとも、すでに戦いはほとんど終わっていた。うめき声を上げながら倒れるギャルメイド軍団。マサヨは青あざだらけで尻もちをつき、愛助は全身がボコンボコンにひしゃげている。渡部だけが元気にレーヴァテインを振り回し、まだ動けるギャルメイド数人を追いかけている

          小説ですわよ第3部ですわよ7-8

          小説ですわよ第3部ですわよ7-7

          ※↑の続きです。 「いらねえ!」  舞の叫びと、肉のぶつかる音が、同時に響き渡る。三平は娘が宇宙お嬢様をぶん殴ったと思いこんでいた。実際に舞は殴りかかるべく、テーブルの上に飛び乗って宇宙お嬢様に拳を振り上げた。が、それよりも速く、御付きのギャルメイドが舞に鉄拳を繰り出していた。そこへイチコが割って入り、ギャルメイドの攻撃を両手で受け止めたのだった。口からポテトがはみ出ている。  矛先を向けられたお嬢様当人は涼しい顔でサムライマックを食べ終え、包装紙を寸分の狂いもない二等辺三

          小説ですわよ第3部ですわよ7-7

          小説ですわよ第3部ですわよ7-6

          ※↑の続きです。  水原三平は恵まれた人生を歩んでいた。大手建設会社の部長で、年収は2000万。妻と娘ふたりに恵まれた。千葉の有名アトラクションの建設……には関われなかったが、そのスタッフが行き来する地下迷宮のような通路の建設に携わった。東京の世田谷に一軒家を建てることができた。最初は一緒に野球やテレビゲームを遊んでくれる息子が欲しいなどと考えていたが、妻の妊娠を知ったとき、そんな自己中心的な願いはすぐに吹き飛んだ。妻も子も無事で生きてほしい。そのためなら自分はどうなっても

          小説ですわよ第3部ですわよ7-6

          小説ですわよ第3部ですわよ7-5

          ※↑の続きです。  舞は人民大学習堂を目指し、後ろを振り返ることなくイチコと並走する。イチコが多少速さを合わせてくれるとはいえ、並んで走れることが舞は嬉しかった。以前ならすぐに息切れして、背中が見えなくならないよう追いかけるのが精一杯だった。さっきはイチコを全力でぶん殴ってしまったが、ダメージが残っている様子はない。愛用するウネウネ棒を片手に意気揚々と走っている。一方、舞の右手には誠意の幟旗、左手には紙袋があった。バリカンやウネウネ棒の他にも、宇宙お嬢様への対抗手段が他にも

          小説ですわよ第3部ですわよ7-5

          小説ですわよ第3部ですわよ7-4

          ※↑の続きです。  特異点。全マルチアヌスの因果に干渉し、影響を与えうる存在。ギャルメイドたちにとっては宇宙秩序を乱しかねない危険因子。それが森川イチコだ。特異点は全マルチアヌスにおいて、唯一無二である。だが、特異点に限りなく近い者――『近似存在』がいる。その中のひとりがミュージシャン/タレントである、田代まさしだ。  かつてアヌス02の神沼は、特異点への直接的な接触を避け、近似存在を手中に収めようとしていた。特異点を迂闊に刺激すれば、全マルチアヌスが滅びかねないからだ。し

          小説ですわよ第3部ですわよ7-4

          小説ですわよ第3部ですわよ7-3

           戦いの構えをとった舞に、ギャルメイドたちが告げる。 「メイド長に相撲で勝て。さすればメイド長は森川イチコに戻り、宇宙お嬢様への謁見が叶うだろう」  舞がうなずくと、ギャルメイドたちはどこからともなくラインカーを持ち出し、コロコロと転がし始める。石灰で白い円が描かれ、即席の土俵が完成した。 「何度勝負しても構わぬ。一度でもメイド長に勝てばいい。好きなだけ挑むことだ」  一度でも勝てばいい。ずいぶんと優しい条件だ。実力はイチコが遥に上回るとしても、粘り強く食らいつき続ければ隙を

          小説ですわよ第3部ですわよ7-3

          小説ですわよ第3部ですわよ7-2

          ※↑の続きです。  初代ピンキーは第3アクアラインを走り抜け、暗黒空間アビス・オブ・アヌスに突入した。舞の眼前は一瞬だけ完全な闇に覆われたが、すぐに光が差しこむ。気がつくと初代ピンキーは、どこともわからぬトンネルの出口から抜け出ていた。  舞の目が眩しさに慣れる。飛びこんできたのは見覚えのある石畳の広場と、モスグリーンの屋根が印象深い城のような建造物だった。 「あ! 金日成広場だ!」  『金日成広場』は北朝鮮・平壌の代表的なランドマークだ。祝典や軍事パレード、各種イベントな

          小説ですわよ第3部ですわよ7-2

          小説ですわよ第3部ですわよ7-1

          ※↑の続きです。  黒。漆黒の闇。色のない無の空間に、イチコは囚われていた。身体は自由だ。しかし上下左右がわからない。かといって無重力の空間に浮いているという感覚もない。ここから走り出すために一歩踏ん張るための地面だけがない。奇妙なのは漆黒ではあるが暗闇ではないということだ。肌色の手、黒い髪やジャージ。切るのをサボっていたので、爪の先の白い部分が伸びているのがわかる。  どれだけ、この場所に幽閉されているだろう。時間の概念さえ希薄になりかけたころ、目の前に見知ったシルエット

          小説ですわよ第3部ですわよ7-1

          小説ですわよ第3部ですわよ6-4

          ※↑の続きです。  綾子の邸宅脇にあるガレージ内で、初代ピンキーは桃色のカーカバーをかけられて眠っていた。舞が大きすぎるカバーをなんとか引っ張り剥がすと、敵対していたときと変わらぬ威圧的な姿を見せる。変わったのは中身だ。以前は超常能力者たちの死体を動力源としていたが、綾子の魔法と原子力(!)で稼働する本来のエンジンに換装されたと聞いた。こんな巨大で物騒なトラックをイチコと綾子が乗り回していたというのだから驚きである。  数km先の事務所まで、こんなデカブツを公道で走らせる

          小説ですわよ第3部ですわよ6-4

          小説ですわよ第3部ですわよ6-3

          ※↑の続きです。 ※田代マサヨ、愛助、渡部などについては、↑の第2部をご覧ください。  双子の太陽に肌を赤く焼かれながら、田代マサヨが声を張る。 「渡部さん、そっちどう?」  ハンチング帽の男が砂漠を踏みしめて振り返った。何度見ても、戦場カメラマンの渡部陽一に似ているとマサヨは感心する。それもそのはず、この男は渡部陽一の並行同位体である。 「大幅にぃ減少していますぅ。というよりぃ、ほとんどゼロですねぇ」  本家と同じくゆったりとした口調で、渡部はスカラー電磁波の値を答えた

          小説ですわよ第3部ですわよ6-3