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小説ですわよの番外編ですわよ2-1
※↑の番外編です。
2022年 12月20日 火曜日。
昨日、舞は激闘と茶番の末に神沼と宝屋を倒した。しかし返送者がいなくなるわけではない。翌日も返送の仕事はある。
ショッキングピンクのハイエースが、大摩羅駅から徒歩10分ほどに位置する工場付近で停車した。
この工場は、神沼の会社が経営しており、神沼が生成した吐しゃ物――神汁の原液――を加工・パッケージングしているという。工場の経営者や現場責任者は返送者で、一般人のアルバイトに暴力暴言を浴びせ、法外な低賃金と労働時間でこき使っているらしい。しかもバイトは敷地内のプレハブ小屋のタコ部屋に寝泊まりさせられ、家に帰れない状況にあるそうだ。神沼の身柄は探偵社に拘束されたが、その騒ぎは工場に伝わっていないようで、現在も稼働している。
舞は無機質な灰色の工場を見上げ、背筋を凍らせた。というのも記憶を失っていたときにバイト登録した工場だからだ。一歩間違えていれば、自分もバイトたちと同じ目に遭っていたかもしれない。
舞たちの仕事は、従業員の解放と経営者および責任者の拘束(場合に応じて返送)だった。
「水原、そろそろ行くぞ」
後部座席に座る白ジャージの男、ホワイトがオールバックの髪をかき上げた。その隣に座るレッドも拳を握る。
「こんな蟹工船みたいな工場、めちゃくちゃにしてやるッスよ!」
今回は舞とイチコに加え、ホワイトとレッドも同行していた。レッドは工場内に返送者が複数いることから戦闘要員は選ばれた。ホワイトは事を可能な限り穏便に済ませつつ、いざとなれば警察とのコネを使って事態の対処が可能という理由の選抜だ。イチコは車内に待機し、万が一の事態が起きれば突入する手はずになっていた。
レッドが後部座席から身を乗り出し、スマホ画面を見せてくる。
「水原さん、工場から送られてきた臨時IDは?」
「もちろん。これでしょ?」
今朝届いたメールをレッドに見せた。メールにはアドレスが張り付けられており、タッチすると建物に出入りするためのQRコードが表示される。
「ホワイトは大丈夫そう?」
「無論」
ホワイトもQRコードの画面を見せる。ゴールドのハッキングによって舞、レッド、ホワイトは今日限りのバイトとして工場で働くことになっていた。バイトのふりをして、工場に潜入するというわけだ。
舞はシートベルトを外し、グローブボックスから〇と□のレンズのメガネを取り出した。これをかけていれば広い工場内で、返送者を見分けることができる。
「3人とも無茶はしないでね。死んだら元も子もないんだから」
呑気な声でイチコが見送る。
「死んだ人に言われても説得力ないですよ。行ってきます」
「ハハーッ! 行ってらっしゃい」
舞たちは敷地内に入り、関係者エリアに続く入口でQRコードをゲートの読み取り機に当て、潜入に成功した。ゲートのすぐ先に受付があり、担当の女性にホワイトが話しかける。
「臨時バイトで来たのだが」
受付の女性はパソコンを操作し、舞たちの情報を確認した(先ほど提示したQRコードをパソコンで確認したのだろう)
「水原 舞 様、レッド様、ホワイト様ですね。担当者が参りますので、そちらのソファにかけてお待ちください」
舞たちは女性の言葉に従い、ソファに腰を下ろす。
「レッドとホワイトって、本名じゃないのによく疑われませんね」
「不思議ッスよね。社長の魔法のおかげなんスかね~?」
「私も詳しくは知らんが、そんなところだろう。ちなみに……」
ホワイトのメガネがぎらりと発光する。
「このホワイトという名前は、お嬢が与えてくれた名だ。侮辱する者は身内だろうと容赦しない。くれぐれも忘れぬことだ」
トーンの低い声だが、強い威圧感があった。
(うわぁ、ヤバ……)
心の声を抑え、舞はホワイトに質問する。
「で、ここからどうします?」
「バカ正直にバイトするのはダルいッスよね」
「任せろ。私は交渉役だ。上手く立ち回る」
舞はホワイトの言葉を信じることにした。警察にコネがあり、これまで舞やイチコが繰り広げてきた騒ぎも、ホワイトの交渉があって表沙汰になっていないと聞いていたからだ。なによりホワイトからは、探偵社の人間が持つアホさが漂っていない。知的に物事を解決してくれるという直感があった。
そんなことを話していると、背広の男が近づいてきた。
「水原 舞 様、レッド様、ホワイト様ですね。臨時バイトにご登録いただきありがとうございます。これから業務のご説明を行いますので、ご同行願います」
舞たちは立ち上がり、男のあとについていく。受付脇のエレベーターに乗り、一同は7階へと上がる。その途中であった。
「オロロロ!」
いきなりホワイトが手を自らの口に突っこむ。指先どころではない、ほとんど拳ひとつが丸ごと入っていた。
舞が驚き、男が振り返ると同時に、ホワイトは拳を引き抜く。その手には日本刀が握られていた。体内に刀を隠していたのだ。
「なっ!?」
非常ボタンへ手を伸ばそうとする男の手が止まる。その喉元にホワイトが日本刀を突きつけていた。刀身からは涎か胃酸か、よくわからない体液がしたたり落ちている。
「なにやってんの! 交渉はどうなったわけ!?」
「交渉で優位に立つ秘訣を教えよう。圧倒的な暴力を有することだ」
「ホワイトらしいッスね!」
「最っ悪っ!」
舞は頭を抑える。所詮ホワイトも知性派ぶっているが探偵社の人間だった。そんな落胆など気にも留めず、ホワイトは男に迫る。
「最高責任者のところまで、ご案内いただこう」
刀から謎体液が垂れて、床に落ちる。その汚らしい音を聞いて舞は冷静になった。自分も探偵社の人間であると。そして男に怒鳴った。
「こちとらメキシカンマフィアも泣いて黙る殺人集団だ! えげつねえムービーをネットに晒されたくなけりゃ、さっさと社長のとこまで連れてけ!」
「は、はいぃっ!」
男は嗚咽しながら7階のボタンを二度押しで取り消し、涙声で10階のボタンを押す。
エレベーターが10階で停止し、扉があく。そこで待っていたのは無数のマシンガンの銃口であった。
つづく