AIに小説ですわよの番外編を書いてもらいましたわよ
※↑の番外編をAIに書いてもらいました。
※冒頭は投稿者が入力した文章です
2022年12月23日(金)。午前8時52分。
ショッキングピンクのハイエースが、ちんたま市の交差点で青信号を待っている。出勤のピークを過ぎ、道行く自動車は減りつつあった。
水原 舞は助手席から身を乗り出し、バックミラーに自らの髪の毛を映した。頭頂部付近の数本が、ぴょこんと天を指していたので、急いで手櫛で直した。それでも、やはり跳ね上がっている。
舞は諦めてタブレットを取り出し、今朝1件目の仕事内容を確認する。
「標的の返送者は、今までとひと味違うわ」
ピンピンカートン探偵社の事務所へ出勤した際、社長の上羅 綾子の放った言葉が、舞の脳内でリフレインした。
舞はタブレットに表示された返送者の画像に目を落とし、ため息を吐いた。
深緑の分厚い装甲に、キャタピラ。一門の大砲。ミサイルや光学センサーと思われる赤い目。
標的名は、タートルヘッド。なんと人間ではない。いや、人間かもしれないが、少なくともこの世界の定義からは大きくかけ離れている。今回の標的とは異世界から転移してきた戦車だった。舞の仕事は、返送者たちをハイエースで轢き、転生先の世界へ送り返すことだが、こんな相手は初めてだった。
「こういう依頼って、今までにもあったんですか?」
舞は運転席の相棒、森井 イチコに訊ねる。イチコは切れ長の目を前に向けたまま答えた。
「初めてだよ。超科学のメカを持ってる返送者は何人かいたけど」
信号が青に変わり、ハイエースが発進する。イチコの長く艶やかな黒髪がわずかに揺れた。
「そもそも、本当に返送者なんですか? 軍団を疑うわけじゃないですけど、自衛隊かどっかの最新兵器だったりして」
「軍団が自衛隊に問い合わせたが、まったく知らないって」
タートルヘッドは、ちんたま市内を徘徊し、ヤクザや半グレを襲撃しているらしい。騒ぎにならないのはタートルヘッドに光学ステルス機能が搭載され、使用兵器も爆発や爆音を伴わないものであるからだ。
「このハイエースで勝てるかなあ」イチコが漏らす。
暖房を貫通して、車内に寒気が流れこんでくる。予報によると午後は雪が降るらしい。ハイエースが曇り空の下を走っていく。
※以下、AIが出力した文章です
「やるしかないよ。やらなきゃ、私たちが消されるんだから」
舞はそう言って、タブレットの電源を落とした。ハイエースのダッシュボードには、ハイエースの魔法を発動させるボタンがある。
ハイエースの魔法は、魔法封じの液体や火炎放射器などの特殊兵装を備えた万能車だ。魔法さえ発動すれば、どんな状況でも対応できる。しかし魔法を使うためには、ハイエースの魔法を発動させなければならない。
舞とイチコは、ハイエースの魔法を発動させるため、魔法協会の本部ビルに向かっていた。
魔法協会は、S県北部にある。魔法協会の本拠地は、魔法学園の敷地内にある。魔法学園は山の中にあるため、学園に通じる一本道を通らないと魔法協会まで行けない。舞たちは魔法学園に続く、通称『地獄坂』に差しかかっていた。
「ハイエースが使えなくなったらどうしよう」
イチコはハンドルを握ったまま呟く。舞は苦笑した。
「大丈夫だって。返送者がハイエースを潰せるとは思えないし。それに、魔法が使えない状況になったとしても、私とイチコちゃんならなんとかなるよ。ね?」
舞の言葉を聞いて、イチコは顔をしかめた。
「……うん。そうだよね」
ハイエースは地獄の門を思わせるようなカーブが続く一本道を通り抜け、魔法学園に到着した。
魔法学園の正門を抜けると、広大な敷地が広がる。芝生と木々に覆われた庭。石畳の道。噴水のある広場。
「今日は天気がいいから気持ちがいいねえ」
舞は伸びをしながら言った。ハイエースは庭園のような場所を進んでいく。
「もうすぐ冬だけどね」イチコは皮肉っぽく笑う。
「まあまあ。仕事だから仕方ないじゃん」
舞が言うように、今は12月。日が暮れるのは早くなり、朝晩は冷え込むようになっていた。
「なんか嫌なことでもあったの?」
舞がイチコの顔を覗きこむ。イチコは「べつに」と言ってそっぽを向いた。
「ふーん。じゃあいいけどさ」
舞は肩をすくめ、タブレットを取り出した。
「今のうちにタートルヘッドの情報をチェックしておくから、イチコちゃんは学園の敷地内に入ってて。私はちょっと離れたところで停めるから」
舞がタブレットを操作すると、ハイエースが変形していく。
「了解」
イチコは短く返事をして、ハイエースから降りた。
そして舞を置いていくように小走りで進み、一本の木の陰に身を潜めた。舞はその様子を見届けてからタブレットを操作した。タブレットから光が溢れだし、タブレットの画面に文字が表示されていく。その文面を目で追っていた舞の顔色が変わっていった。
ハイエースから降りてきたイチコの身体を、黒いローブのようなものが覆った。イチコの姿が一瞬にして消えた。イチコが立っていた場所には何も残されていない。イチコはこの世界から姿を消したのだ。
ハイエースが変身した巨大なロボット。全高は30メートル近くあるだろうか。二足歩行する鋼鉄製の亀を連想させる形状をしている。全身に武器を搭載しているようで、甲羅の部分が大きく膨らんでいる。
タートルヘッド。舞たちが召喚した魔法界の機械である。
タートルヘッドはハイエースから降りると、のっそりとした動作で歩き始めた。まるで重病人が歩行訓練を行っているようだ。タートルヘッドの動きに合わせて、タートルヘッドの体内から低いモーター音が聞こえてくる。舞はタートルヘッドが魔法で動いていることを知った。
タートルヘッドの頭部はカメラアイになっていて、その目がチカチカと点滅している。
「すごいな」
舞はタブレットを手に、タートルヘッドを見上げていた。タートルヘッドを間近で見ると迫力が違う。この大きさの魔法生物は初めて見る。
「舞!」
声がして振り返ると、イチコがいた。イチコは黒ずくめの格好をしている。舞も黒ずくめだが、二人の格好の違いは服の色だけではない。イチコの衣装には赤いラインが入っていた。
「タートルヘッドは私が操作する。あんまり近づかない方がいいかも」
イチコが言うと、タートルヘッドが動き出した。タートルヘッドが歩くたびに地面が揺れる。
「タートルヘッドには人工知能が搭載されてるんだよね? どうやって動かすの?」
舞は疑問を口にする。イチコは答えた。
「タートルヘッドは私の指示通りに動いてくれるの。魔法学園の敷地内に入って、ターゲットを探すように指示してある」
タートルヘッドは魔法学園の建物に向かっているようだった。
「ターゲットって誰?」
「ターゲットの居場所はまだ特定できてない。タートルヘッドに搭載されている探知機が作動しないの」
イチコは困り顔で言う。
「……魔法で隠蔽されている可能性もあるのか」
舞が独り言のように呟くと、タートルヘッドが立ち止まった。
「舞、こっちに来て」
イチコがタートルヘッドから下り、手招きする。
「え? なんで?」
「いいから来て」
「わかった」
言われるままに、舞はイチコのあとについて行った。
二人はタートルヘッドから離れ、木立の中へと入っていく。しばらくするとイチコが足を止めた。舞は首を傾げる。
「ここならタートルヘッドからは見えないはず」
「どうしたの急に?」
「ちょっと話があるの」
「ふうん。何の話かな」
「私たちのこと」
「ふむ。聞こうじゃないか」
舞が言うと、イチコが舞の顔を見た。イチコはまっすぐな視線を舞に向けている。その目には強い意志が宿っているように見えた。舞は緊張する。
「まず初めに言っておくけど……」
「う、うん」
「私は舞が好き」
舞は目をぱちくりとさせた。そして苦笑しながら頭を掻いた。
「……はは。いきなりだね」
舞は少し考えてから口を開いた。
「それは友達として好きってことなのかな?」
「違うわ。女として舞のことが好きなの。恋人になりたいという意味で」
「へー、そうかあ。そういう意味かぁ。へぇ……」
舞は照れ臭くなり、頬をぽりぽりと指で引っかいてから俯いた。舞の鼓動が高まっていく。
「そっか。イチコちゃんは私のことをねぇ」
「舞は私の気持ちに応えてくれる気はあるの?」
イチコが真剣な表情のまま訊ねる。
「いや……その、突然そんなこと言われても」
「じゃあいつならいいの?」
「そうだな。今すぐってわけにもいかないよ。だって私たちは出会って間もないし、お互いのことをよく知らないだろう」
「時間は関係ない。舞が他の誰かのものになるくらいなら、私は迷わずに舞を手に入れる」
「は、はは……。なかなか思い切ったことを言うね。だけど今は無理だよ。ほら、私たちまだ学生だし」
「卒業したらOKしてくれるの?」
「う~ん。その時になってみないとわからないというかさ」
「卒業まで待たなくちゃいけないの? 待てない」
「まあまあ。落ち着いて。焦っても何も解決しないよ」
「……舞は私よりも魔法界の人間の方が大切なの?」
イチコの言葉に、舞の心臓がどくんと脈打った。
「それは……」
「もし舞があの男の人を選ぶのなら、舞と私は敵同士になってしまうかもしれない」
舞は息を飲む。まさかイチコとこんなことになるとは思わなかった。
「舞が魔法界を選んだ場合、舞がこちらの世界にいる限りは、私たちは敵にはならないと思う。でも魔法界へ帰れば話は別。私は魔法協会の一員として舞たちと戦う。そうなる前に舞の口から答えを聞きたいの」
「私は……」
イチコはじっと舞を見つめている。
舞の心の中で迷いが生まれた。イチコとの付き合いは短いが、彼女の想いはとても真摯なもののように思える。イチコは自分のことを考えてくれている。イチコと一緒にいれば退屈はしないかもしれない。だが、それではダメなのだ。
舞が返事を考えている間、イチコは舞から目を逸らすことなく見つめていた。舞は意を決する。
「悪いけど、君の想いに応えることはできない」
「どうして?」
「私には心に決めた人がいてね。その人と添い遂げたいと心の底から願っているんだ。だからイチコの気持ちには応えられない」
舞はきっぱりと言い放った。
「舞の心の中を占めているのはその人なんだ」
「ああ。そうだ」
イチコの目に失望の色が浮かぶ。舞の胸がちくりと痛む。
イチコの表情に変化が現れた。悲しげな笑みを浮かべたのだ。イチコの目から涙が流れる。イチコの頬をつたり、顎の先へと流れる。
「そっか。それが舞の出した結論なんだね」
「イチコちゃん……」
「わかってた。舞にとって、私はあくまでただの友人でしかないってことは。それでも期待していた。舞なら、きっと私のことも愛してくれるんじゃないかって。そう思って告白した。でもやっぱり駄目だった。舞はもう別の人のものだったのよね。ごめんなさい」
「いや、謝ることなんてないさ」
舞は優しく微笑んで言った。
「私がその人を想うように、君もその人だけを愛していればいい。お互いに好きなものを大切にすればいいんだよ」
イチコは無言のまま俯いている。舞もそれ以上言葉が出なかった。
舞が沈黙を破るより先にイチコが顔を上げた。そして笑顔を作る。
「じゃあ最後にもう一つだけ質問させて。その人はどんな人?」
「そうだなぁ。明るくて活発でよく笑う。一緒にいると楽しくて飽きないよ。ちょっと子供っぽいところがあるけどね」
「舞はその子のことが好き?」
「うん。とても好きだ」
舞の答えを聞いて、今度はイチコが満足そうに笑った。
「そっか。なら仕方がないね。私は諦めることにする」
舞はほっとした。イチコの恋を応援することはできなかった。イチコとはこれからも友人として付き合っていけたらと思っている。舞はイチコに手を差し伸べ、握手を求めた。
「今までありがとう。イチコちゃんと過ごした時間は楽しかったよ」
「私も舞と過ごせてよかった。これからは敵同士になるけれど」
「そんな悲しいこと言わないでよ」
「でも舞は魔法界に帰るでしょう?」
「う~ん。実は迷っているというかなんというかさ」
「えっ?」
イチコは意外そうな顔をする。
「その気になれば、私は魔法界に帰らず、ずっとこの世界に居続けることもできると思うんだ」
イチコの顔つきが変わった。舞の言葉の意味を理解しようと思考する。
「それはどういう意味?」
「イチコはS県の神話を知ってるかい? 昔々の話だ。あるところに一人の女の子が住んでいた。その子はある日を境に突然姿を消す。だけど一年後にまた姿を現した。その時、その子はお腹の中に子供を宿していたというんだ。つまりその女はこの世界に残ったということさ」
「まさか……。舞、本気で言っているの?」
「冗談に聞こえる?」
イチコは大きく目を見開いたまま固まってしまった。しばらくそのままの姿勢を維持していたがやがて口を開く。
「……驚いたわ。本当に魔法を使えるのね」
「私だって魔法が実在することを知ったのはつい最近だよ。まあ詳しい経緯は長くなるから省略する。それでここからが本題なんだ。魔法協会は返送者を使って世界を征服するつもりらしい。イチコは知っているだろう? 返送者がなぜ現れるのか。その目的は何なのか」
「ええ。返送者が魔法界で問題を起こし、こちらの世界へ送られてくるという話ね」
「そう。魔法界の秩序を保つためには返送者の問題を解決しなければならない。そのために魔法協会が編み出したのは、異能力者を強制的に転生させるというもの。これは人間以外の生物を魔法によって人工的に作り出した空間に送り込むことで異世界に転送させ、問題を解決するという方法なんだ。イチコが魔法協会の手先だという証拠はまだ見つかっていないが、私は君の行動がどうにも引っ掛かっている。君は魔法協会側の存在かもしれないし、そうじゃないかもしれない。イチコ、正直に答えてくれ。君の目的を教えてほしい」
「……私の目的は魔法界の安定よ」
イチコは数秒ほど沈黙してからそう言った。
「嘘ではないみたいね」
「どうしてそんなことがわかるの?」
「私も似たようなことを考えていたから」
「そっか」
「お互い大変よね。好きになった人も悪の組織の関係者で。でも不思議と嫌な気分にはなれない。好きな人が悪人だから嫌いになるなんてことはないから。私は舞がどんな人でもいい。あなたがあなたの選んだ道を進むならそれを応援したいと思ってる」
「ありがとう。イチコちゃんは優しいね」
二人は微笑み合った。
だが、それも一瞬のこと。イチコはすっと真顔に戻った。
「私は舞と戦う。私の願いのために」
「私はイチコちゃんと戦いたくない。友達とは争いたくなんかないよ」
「私も同じ気持ち。でも、こうなった以上戦わないわけにはいかないの」
イチコが右手を上げた。手には赤い石が握られている。その石を握りつぶした瞬間、彼女の体が炎に包まれる。舞はイチコの変身した姿を目の当たりにして動揺する。その姿は魔法少女と呼ぶに相応しい。イチコは舞のほうを見て微笑む。舞が言葉を発する前に、イチコは背中の翼を広げて飛び立った。空高く舞い上がりながら、彼女は声の限り叫ぶ。
「愛しているわ、舞!」
「私もだよ! イチコちゃん!!」
「さよなら、私の初恋の人……」
イチコの姿はみるみると小さくなり、やがて見えなくなった。
「イチコちゃんが魔法使いだったなんて。しかもあの子、かなりの実力者じゃないか」
イチコがいなくなると、辺り一帯が暗闇に覆われる。舞の周囲だけポッカリと明るいが、それ以外は何も見えない。
「さすがはちんたま市。夜になっても全然明るくならないんだなぁ」
イチコが去った後すぐに日は沈んだ。それからずっと暗いままだ。舞は自分の周りだけ明るく照らす魔法を発動した。これで自分の周辺だけは明るくなった。
「まずいな。これだと道が分からないぞ」
自分がどこにいるかも分からなかった。舞は困り果ててしまう。イチコを追いかけることはできない。空を飛んで移動すると目立つからだ。舞は魔法で明かりを点けて、街を散策することにした。
イチコが去っていった方角は見当がつく。舞はその方向に向かって歩いた。
しばらく歩くと前方にコンビニが見えてきた。その周辺に人の気配はない。この一帯は寂れている。まるでゴーストタウンのようだ。こんなところで一人で歩いていたら怪しい奴と思われるかもしれない。
「いや~ん、誰か助けてください。変態に襲われます」
とりあえず叫んでみた。誰も来ない。そもそも舞は一人である。舞の頭の中にはイチコの顔が浮かんでいた。彼女に追いつくことは恐らく不可能だろう。ならば今できることはイチコの情報を集めることだ。情報を集めて、今後の方針を考える必要がある。
「んっ?」
前方の路地裏から音が聞こえた。何やらもめ事が発生しているらしい。舞はそちらの方へ足を向けた。
「やめてっ!」
女性の叫び声が聞こえる。どうやらイチコではないらしい。ということは返送者か? もしそうだとしたら、これは千載一遇のチャンスだ。舞は声を頼りに路地裏に入る。
「嫌だ、放してッ」
舞の目に飛び込んできたのは男に絡まれている少女だった。その男は長身で髪が長い。背筋が伸びていて歩き方が特徴的だ。一目見ただけで只者でないと分かる。彼は長い髪をかき上げ、女に顔を近づけている。女は必死に抵抗していた。しかし、男は女の両腕を掴んでいるため逃げることができない。男は舌なめずりする。どう見ても変質者だった。舞が男の前に躍り出る。
「ちょっと、その人嫌がってるでしょ。離しなさいよ」
「なんだ? お前」
「通りすがりの正義の味方です」
舞は胸を張って答える。本当は通りすがっただけの不審者なのだが、あえてそこは黙っていた。
「じゃあ死ね」
男が指先を舞に向ける。その瞬間、舞の心臓目掛けて弾丸のような速さで拳が迫ってくる。舞は咄嵯の判断で男の腹に強烈な蹴りを入れる。男は後方に吹っ飛んだ。そして地面に倒れる。その隙に舞は女のほうへ駆け寄ろうとする。
「危ないッ」
舞が振り向くと、男はいつの間にか起き上がっており再び腕を伸ばしてきていた。どうやら舞は背後からの奇襲を受けたらしい。舞は素早くバックステップをして、相手の攻撃を避ける。男は体勢を立て直すとまたも舞に攻撃を仕掛けようとする。
「邪魔するんじゃねぇーよ!!」
今度は横薙ぎの攻撃だ。男は両手の平を相手に向けると、手首を回転させるように動かし始めた。すると手の甲が回転し始める。回転する手が刃物のように舞に迫る。
「おっと」
舞は上体を反らせて攻撃をかわす。男は続けて何度も同じ動作を繰り返した。しかし、どんな動きをしても手の軌道が変わることはない。やがて男の息が上がり始める。舞は余裕綽々といった様子だ。舞は相手の呼吸が整う前に次の一撃を食らわせることにした。舞が動く。一瞬にして男との距離を詰め、回し蹴りを放つ。舞の動きに反応しきれず、男は防御することができない。彼の顔面に蹴りが入る。舞の足の衝撃により、男は吹き飛ばされ、地面の上を転がっていく。舞は追撃を加えるべく倒れたままの男に接近した。その時、何かが飛んでくる気配を感じた。舞は咄嵯に身を翻して回避行動を取る。直後、彼女が立っていた場所を炎が通過した。
舞は炎が飛んできた方向を見た。そこにはイチコがいた。彼女は炎の剣を構えて舞と対峙する。舞もイチコに対抗するように魔法を発動した。舞の周囲に氷の柱が数本形成される。
イチコは炎の刃を振るった。炎の斬撃が放たれて一直線に舞を襲う。舞は瞬時に魔法を発動させた。魔法陣が現れてそこから盾が出現してイチコの炎の攻撃を受け止める。イチコの放った炎の斬撃は、魔法の盾によって完全に防がれた。しかし、すぐに別の方向から火の玉が襲ってくる。舞は魔法を使って上空へ飛び上がった。そのまま上昇を続ける。
「逃がさないわ」
イチコが追いかけてきた。彼女の周りから複数の魔法陣が現れる。無数の火球が舞を襲った。舞は迫り来る火球に対して魔法を使った。舞を中心に強風が発生して周囲の空気を巻き込む。風の勢いは凄まじく、まるで台風のようだ。火球は風に飲み込まれ消滅する。舞は風に乗ってさらに上昇する。
イチコが追ってきた。舞はイチコに狙いを定めると、手に持った銃を撃った。発射された弾は氷柱だ。イチコに向かって飛んでいく。イチコは舞が放った氷の塊を炎の刃で斬り裂いた。しかし舞はさらに銃弾を撃ち続ける。撃ち出された氷柱が次々にイチコに命中した。イチコは炎の鎧で全身を包んで、身を守る。しかし、それでも全ての氷の弾丸を防ぎきることはできない。氷の弾丸の一部が、炎の鎧を貫く。イチコの体に傷がついた。イチコは怯んで足を止める。その隙に舞は空中に留まった。そしてイチコに向けて大量の水を発生させる。大量の水が滝となってイチコを飲み込んだ。
舞が地面に着地する。水のカーテンを眺めながら一息ついた。それから周囲を見回す。舞の周囲にいた人々は避難していたらしく姿はなかった。舞は自分が戦っていた相手が返送者であるイチコであることを知る。イチコの姿は見えない。どうやらイチコが放っていた火炎放射が舞の起こした洪水に消火されて消えてしまったらしい。
イチコが姿を現した。全身ずぶ濡れになっている。舞の放った大量に発生した水が彼女の体を押し流していたのだ。
「まさかこんなに強かったなんて」
イチコは悔しそうな表情を浮かべていた。舞は自分の勝利を確認すると笑みを見せた。
「あなたの負けよ。さあ、大人しく観念しなさい」
「そう簡単にはいかない」
イチコは再び魔法を使い、自身の体の周囲を炎で覆う。そして炎を身に纏いながら、素早い動きで舞に迫ってきた。炎をまとっているせいでイチコの体は燃えているように見える。
「あなたがどれほど強くてもこの炎の衣を突破することは……できない」
舞は冷静な様子で、相手の様子を観察している。イチコが剣で切りかかってきた。しかし、その攻撃が舞に当たることはない。舞の魔法で生み出した障壁によりイチコの攻撃を阻まれる。
「無駄よ。私の魔法には敵わないわ」
「いいえ、その魔法を打ち破ってみせる」
イチコが舞に接近してくる。炎の刃で舞に攻撃を仕掛ける。舞は素早くバックステップをして距離をとった。そのあともイチコは執拗に舞へ迫る。イチコの攻撃は激しくなり続けた。舞はその攻撃を回避し続ける。やがてイチコの体が炎に焼かれ始めた。
「どう?私に攻撃を当てられた?」
「まだ、終わっていない」
イチコが炎に包まれながらも、攻撃の手を緩めなかった。舞が魔法を使ってイチコの体を氷漬けにする。イチコは炎を解除して氷の牢獄から抜け出した。氷の拘束を振りほどくためにイチコは必死になっていたため、その隙に舞に接近することはできなかった。二人はしばらく攻防を続けた。舞は炎の衣を突き破り、イチコにダメージを与えることができるか、イチコは炎の衣を破ることができないまま炎に焼け焦げていくか。勝負は拮抗していた。
イチコの体力が尽きてきた。動きが鈍くなっていく。一方、舞は涼しい顔をしてイチコと向き合っていた。二人の実力の差は大きく開いてしまった。このまま戦いを続ければ、どちらが勝つのかは誰の目にも明らかだ。しかし、イチコにはまだ奥の手がある。イチコの体を覆うオーラが強くなった。次の瞬間、彼女は爆発的な勢いの炎を放った。
炎は一瞬にして、辺り一面を焼き尽くす。炎が通り過ぎた場所は灰すら残らないほどの高温となっていた。爆風で舞は吹き飛ばされそうになる。なんとか踏み留まって体勢を整えた。そしてイチコの様子を確認する。するとそこには、全身を燃やし、ボロ雑巾のようになったイチコの姿があった。今にも倒れてしまいそうだ。舞はイチコへ近づく。
「終わりね。もう動けないでしょう」
「まだ、私は負けていない」
イチコがよろめきながら立ち上がる。舞に近づいてこようとする。しかし、すぐに膝をついて、地面に倒れた。そして意識を失う。イチコは完全に力を失ったようだ。
舞は変身魔法を使う。その姿がショッキングピンクのハイエースへと変わった。そしてイチコを車の中へ運ぶ。車を走らせてイチコを病院へ連れていった。
舞は医者から治療を受ける。舞はイチコが目を覚ますのを待っていた。しばらくしてイチコの病室を訪れる。舞の姿を見たイチコが驚きの声を上げた。
「どうしてここに……」
「私があなたを倒したからよ」
「そんなはずはない」
イチコの顔が曇った。彼女の表情から自信が消える。それを見て舞は微笑んだ。
「信じてくれないならそれでいいわ。それより、なんであんなことをしたの?」
「……あれしか、方法がなかったから」
「どういうことかしら」
「あの魔法は禁術だから、使いたくはなかった。けれど、それ以外に私には選択肢がなかったの」
「一体何の話をしているの」
「……実はあなたたちに隠していたことがあって」
イチコが言い淀む。そして覚悟を決めたような表情をした。
「異世界からの帰還者たちの中には強力な魔法を操るものがいる。それは知っているよね」
「ええ、でも、それがどうしたの」
「彼らは全員魔法協会が把握していない特殊能力を持って返送されている。例えば、転移魔法の使い手である舞はわかると思うけど……私の持っているこの魔法は転移魔法ではないの」
「どういう意味なのかしら」
「私の魔法の正体は召喚魔法よ」
「そうだったの」
「召喚魔法は本来異世界の生物を呼び寄せるためのもの。その力で私たちは元の世界に戻れなくなるかもしれないと思った協会は私たちへの召喚魔法の行使を禁止していた。しかし、協会の指示に従えない者が現れる」
「つまり……あなたもそういうタイプの人間だったというわけね」
「私の家族も友達も皆、返送されてしまった。私の家族がどこにいるかもわからない。友人だって……無事かどうか」
イチコは涙を流す。舞はそれを見つめていた。彼女が涙を流したのは舞が初めてイチコと出会ったとき以来であった。
「そう、辛かったわね」
「うん、本当に辛い」
「でも、安心して。あなたも一緒に帰ろう」
「ありがとう」
イチコは笑顔を見せた。舞はその顔を見て、安堵の息をつく。その後、イチコと会話をして彼女と仲良くなった。
舞とイチコは連絡先を交換して、別れた。
数日後、再び舞はイチコと再会する。イチコは元気になったようで退院していた。イチコは嬉しそうな様子で舞を迎えてくれる。舞は彼女を車に乗せると自分の家まで連れて行くことにした。そして二人はしばらく談笑した後、舞は異世界へ行く準備を始める。異世界行きの方法はハイエース魔法を使うことだ。
舞はハイエース魔法を使って異空間へ飛ぶための扉を作った。イチコを連れて異世界へ転移するために。
イチコは舞の作った異世界へ繋がるゲートを通って異世界へ行こうとしていた。舞はその前にイチコへ声をかける。
「さあ、行くわよ。大丈夫?怖くない?」
「怖い。すごく怖い。だけど、行かないと」
「心配しないで。もし何かあっても私が守ってあげるから」
「わかった。じゃあいく」
舞はイチコの手を握って、二人でハイエース魔法で作り出された異世界へつながるゲートをくぐった。二人は異世界へ到着した。
※完結する気配がないので、ここで終わります。