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私的メタル論 <その2>商業メタル万歳!

みなさん、元気ですか?今回は私的メタル論の2回目と言うことで、前回記事をまだ読んでいない方はこちらからどうぞ ↓

今回のタイトルはズバリ「商業メタル万歳!」です。メタルと聞くと売れ線とは無縁と思われがちですが、バンドがいろんな意味で不調をきたし始めるとイメチェンを図ったり、曲の雰囲気を変えたりすることも珍しくありません。

コアバリューを変えないのがメタルバンドの良さではあるのですが、「まぁそういうのはまたバンドがうまく回り始めてから考えようや」ということで、レコード会社やマネジメントから諭されつつ、まずは売れる作品、再び注目を浴びる作品を作ることに集中することになります。平たく言うと「次が売れなければおしまい」みたいな場合が多い。そんな背水の陣の中で起死回生の一撃となった3作品が今回のおススメです。

やはり「売れるは正義」。ライブをやれば超満員。演奏すれば観客は大盛り上がりの大合唱。次のアルバムも潤沢な予算が約束される。10年もすればアルバムもクラシックとして取り上げられロック史に名を残すことができる。いいことづくめで一度売れたらもう昔には戻れません。

特に今回の3枚は一般リスナーの認知度も高く、売れただけあって非常に聴きやすい作品なので、メタルをこれから聴きたいという方には安心しておススメできる良盤です。

では、1枚目から行きましょう!

KISS(キッス): DYNASTY(地獄からの脱出)

KISS / Dynasty

キッスファンから「このアルバムじゃないだろう?」と言う声も聞こえてきそうですが、あえてのこれです。キッスの1979年発表通算7枚目のスタジオアルバム。

このアルバムを発表する前に人気絶頂であったキッスはメンバー4人のソロアルバムを出すなど工夫してなんとかバンドの空中分解を防ごうとしていました。ギターのエース・フレイリー(ジャケ写だと左下)は今にも脱退しそうだし、ドラムのピーター・クリス(同じく右下)はドラッグでボロボロというありさまだったよう。

昔の良い時代ももう一度取り戻そうと、外部ソングライターを招き入れて作ったアルバムがこれです。特にこの時期に流行っていたディスコサウンドは多くのロックリスナーに嫌悪されていましたが、キッスの採った戦略は真逆。むしろディスコを積極的に受け入れた1曲目「I was made for loving you」が大ヒット。彼らを代表する人気曲となりました。欧米ではディスコを嫌う風潮は今なお強いものの、日本ではKISSといえばこの曲と言う人も多いはず(私もそうです)。

その他の曲についても、これまでのキッスの分かりやすいが逆に言えば大味な曲調が鳴りを潜め(何曲かあります笑)、ウェットでどことなくソウルを感じさせる曲が録音されました。特に3曲目「Sure Know Something」はこれまのキッスには考えられなかったしっとり感とバックビートのタメ感のある曲。4曲目もディスコを感じさせつつイギリスのニューウェーブっぽくも感じる新機軸でかっこいい。6曲目も味わいがありイイ感じ。「キッスはベスト盤を聴いたけど、何曲かはいい曲もあるけどちょっと大味な曲が多いね」と思う人は結構いると思います。が、そんな方にもお勧めできるのがこのアルバム。個人的にはもっと外部ソングライターが関与して、1曲目や3曲目のような曲を録音して欲しかったかなと。世間的に評判が高い(らしい)2曲目のストーンズのカバーは逆に不要でしょう。

このアルバム自体は非常に売れたのですが、ディスコサウンドへの迎合が私の記事的に言うと彼らのコアのブランド力を(激しく)棄損したらしいのと(私はむしろこちらが好きなのですが)、ピーター・クリスがドラッグ問題で解雇されるなど、キッスは徐々にその勢いを失っていってしまいます。

2枚目のおススメに行きましょう。

AEROSMITH(エアロスミス):PERMANENT VACATION
              (パーマネント・ヴァケイション)

Aerosmith / Permanent Vacation

事実上の解散状態であったエアロスミスがギターのジョー・ペリーを戻してアルバムを発表したのが1985年のこと。話題にはなったもののそのアルバム自体はヒットせず。しかし、翌年の1986年にRUN D.M.Cがかつての名曲「Walk This Way」をサンプリングし大ヒットさせ、その余波でエアロスミスも非常に注目を浴びることになりました。そして翌年の1987年に出したアルバムがこれ(通算13作目)。あとで紹介するボンジョヴィの「Slippery When Wet」を大ヒットさせたプロデューサーのブルース・フェアバーンを呼び寄せ、録音スタジオまでボンジョヴィと同じスタジオ(リトルマウンテンスタジオ)と言う徹底ぶり。正に正念場のエアロスミスが売るためなら何でもすると意気込んで作ったであろうアルバムと言えます。そして目論見は見事的中し、エアロスミスの第二期黄金期が始まります。

このアルバムを一言で言えば、エアロスミスのアップデート。エアロスミスの名声と楽曲の良さは既に多くの人は知っていたものの、70年代がセールスのピークであった彼らは、80年代の若いリスナー(ロックは昔は若者の音楽でした)からはやや古い世代ものと見られていました(前述のキッスもこれに苦しみます)。

彼らは外部ソングライターを招き入れ、自分達以上に自分達らしい名曲が誕生します。それが5曲目の「Dude(Looks Like A Lady)」です。今でも様々なところでBGMとして利用されるこの曲ほど第二期黄金期のエアロスミスを特徴づけている曲は無いんじゃないかと思います。聴いたことがある人も多いはず。またこのアレンジにブラス(管楽器)が使われていますが、このアルバム以降しばらくメタルバンドの中にも作品中にブラスを入れることが流行りました。

その他には3曲目のRag Dollもカッコいい。ミドルテンポの曲ですが、グルーヴがありメロディーにもフックがある。こちらも外部ソングライターが参加しています。7曲目もあえて地味で枯れたウェスタン調のアレンジでかっこいいですが、これも外部ソングライターとの共作。

そして極めつけは9曲目のパワーバラード「Angel」も大ヒットしました。最初は静かに始まって、サビもしくは手前のBメロぐらいになると「ジャーン」とギターやドラムが入ってくるという一世を風靡したメタルバンドのヒット法則であるパワーバラード。この曲はアレンジ的にイントロから結構騒がしいですが、曲の雰囲気は正統派メタルパワーバラードです。こちらも外部ソングライターとの共作。

あと目玉とまでは行きませんが、ビートルズのカバー11曲目の「I'm down」もかっこいいなと思いました。ビートルズはあまり聴かないのですが、エアロスミスの曲かなと思うぐらいハマってます。

ヒット請負人プロデューサーと天才外部ソングライターがエアロスミスを再びスターダムに押し上げた大傑作アルバムです。この後何作かエアロスミスの快進撃が続きます。

最後の3作目は超有名作品です。

BONJOVI(ボンジョヴィ):SLIPPERY WHEN WET(ワイルド・イン・ザ・ストリーツ)

BONJOVI / Slippery When Wet

ボンジョヴィの1986年発表の3作目。この作品より前の2作ではもう少しメタル色強めであったボンジョヴィが、ヒット請負プロデューサーのブルース・フェアバーンや外部ソングライターを入れて大きく音楽性を変えてきた記念すべき作品です。

ボンジョヴィはそのルックスや「夜明けのランナウェイ」のヒットでそれなりに知名度はあったものの大ヒットとまでは行かず、2作目である前作「7800ファーレンハイト」も思うように売れていませんでした。その頃までのボンジョヴィは日本のフェス的なイベントでもトップバッターで前座的な立ち位置だったと記憶しています。

恐らく次が売れなければアルバム契約も切られてしまうのでは?という状況に追い込まれていたと思われます。そんな中で生まれた名作は、やはりというか名プロデューサーと名外部ソングライターの存在なしには語れません。

傑作にふさわしく、説明不要のヒット曲が並びます。2曲目「You Give Love A Bad Name」の出だしの "シャスーザハー!"は誰でも一度は口ずさんだことがあるはず(多分)。3曲目の「Livin’ On A Prayer」の イントロの "ウォウォ"というボコーダーの音もカラオケでまねした人もいるでしょう。両方とも外部ソングライターとの共作です。

8曲目の「I'd die for you」もこの時代のボンジョヴィらしい曲ですが、こちらも外部ソングライターとの共作。新機軸は5曲目の「Wanted Dead or Alive」でしょうか。カントリーっぽく男くささもありつつのバラードでこちらもヒットします。そしてこの雰囲気はその後のジョン・ボン・ジョヴィのソロ作「Blaze of Glory」に受け継がれこちらも大ヒット。今のボンジョヴィの音楽性はむしろこちらの作風に近いと言えば近い。

びっちりとボンジョヴィの良い部分がこれれでもかと並べられた3作目のこの作品でボンジョヴィは日本で人気のあるバンドから、米国および世界で大人気のバンドにのし上がりました。

ちなみに、今回の名作群は外部ソングライターが重要な役割を演じていますが、キッスの「I was made for loving you」、エアロスミスの「Dude(Looks like a lady)」、ボンジョヴィの「You give love a bad name」「Livin' on a prayer」はデズモンド・チャイルドという外部ソングライターとの共作です。米国の3つのビッグバンドのバンドを体現するような名曲をこんなに書いている天才。しかも「俺が書いたんだぜ!」とメディアに出てくることはない口の堅い名裏方。キッスもボンジョヴィもエアロスミスも、このデズモンド・チャイルドに救われたと言っても過言ではないでしょう。

いかがでしたでしょうか?CDやレコードも売れに売れた時代で、大きいことは良いことだ的な派手なサウンドプロダクションと音楽の大衆性。こういう屈託のない良さが存分に味わえたメタル全盛期の80年代後半(キッスは70年代の作品でしたが)。そしてそれを支えたのは自らが表舞台に出ることはない、デズモンド・チャイルドをはじめとする優秀な外部ソングライター達。

共作するバンドやアーティストの個性や得意な部分を見抜き、大衆の嗜好との絶妙なマッチングを実現させる職人技をぜひ感じてみてください。

次回はメタルの最重要要素の1つであるギターの聴き方について書く予定です。

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