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ジャズに興味がある人に贈る私的ジャズ論 その1 密室型ジャズの誕生

今回から何回かジャズについて書きたいと思います。

少し前に「ブルージャイアント」で話題になりましたが、ジャズと言うと「難しい音楽」とか「高尚な音楽」とか、まだまだそんなイメージがある方も多いと思います。ただそれはジャズがどんどん進化・発展していった結果としてそんな感じになってしまっているように思えるだけで、ジャズそのものは今も昔も大衆音楽です。

例えば、ビッグバンドジャズという吹奏楽やドラムで大勢が演奏する形式。曲で言えば「聖者の行進 / When the saints go marching in」でしょうか?聴いているうちに体が揺れてくるダンスナンバーとも言えると思います。あとは、皆さんどこかで耳にしたことがあるはずの、ちょっと前の映画「スウィングガールズ」でも演奏された「In the mood」とか。

これらは文句のつけようのない完成された音楽です。曲の構成も聞かせどころも全てきちっと作り込まれている。別の言い方をすると楽譜でしっかりと記録され再現できるような音楽です。もちろん、この楽し気なノリや空気感は楽譜では表現できないものの、音程的にはしっかりと音符に落とせるものです。

ただ、皆さんが「ジャズ」と聞くと、こういうビッグバンドを思い浮かべる方はむしろ少数派で、どちらかと言うと数人のバンド形式で延々と管楽器やピアノを奏で続ける密室型の音楽ではないでしょうか?都内だとなぜか居酒屋のBGMとして流れていることが多い笑。

今では「ジャズ愛好家」というのは、一般的にはこの密室型のジャズが好きなリスナーを指すことが多いですし、今なお再発を含め新譜リリースのあるジャズ音楽ですが、そのほとんどが密室型のジャズであり、ビッグバンドジャズやボーカル主体のジャズは本流にはなっていません(女性ボーカル物はそれなりに人気がありますが)。

ちなみに、私個人もやはりジャズと言えば密室型の数名程度のバンド形式でアドリブ主体の演奏を好みます。時代としては先のビッグバンドのジャズの代名詞であるディキシーランドジャズ(アメリカのニューオーリンズ発祥と言われる)が1900年前半のかなり前の方だとすると、密室型のジャズが主流になるのは1950年以降からなので、20年から30年以上の時を経て出てきた音楽形態と言えます。

もともとビッグバンドで演奏していた上手い演奏家達が徐々に少人数で演奏するようになったのが始まりのようですが、チャーリーパーカーとかチャーリークリスチャン(たまたま "チャーリー" がかぶっていますが、全く違う人です)など名演奏家が出てくるようになるといよいよ主流になってきます。

が、出始めの密室ジャズはオリジナル曲というか、曲のコード進行やリズムなど骨格を決めたら、そこからは演奏家個人の技量で全部オリジナルフレーズで曲を弾き(吹き)倒すようなものでした。なので、当時は録音媒体もほとんど無いため、完全にライブ演奏が主体のジャズですが、毎回演奏が違うということが当たり前というか、そもそもそういう音楽だったようです。

チャーリーパーカーやチャーリークリスチャンの当時の演奏を聴くと、どこからがサビでどこからどこまでがアドリブなのかとかよくわからず、結構一本調子で曲が流れていきます。この頃のジャズは「ビバップ」と称されることも多いです。

しかし、毎回違う演奏を求められると、よほどの天才はこなせても、ネタも尽きてしまうししんどいということで、曲はよそから持ってこようというアイデアが生まれ、そこから「ハードバップ」と呼ばれるジャズ黄金期に入ります。曲をよそから持ってくることをハードバップと言ったのではなく、ちょうどその時期の演奏がビバップとはまた違ったものだったことから名づけられました。

このハードバップ期ですが、1950年代から60年代を全盛期とするのが良いでしょうが、もう少し厳密に言えば、1955年ぐらいから数年でしょうか?長くても60年代前半までだと思います。わずか10年ぐらい。でも音楽のブームってそれぐらいが多いと思います。実際、ニルヴァーナで火が付いたアメリカのグランジブームは10年続かなかったと思います。逆にヒップホップが数十年続いているのは凄いですね。

1960年代に入るとジャズもフリージャズの様相を呈しながら少しずつ新しい形に進化していきます。が、この進化を好きな人もいれば嫌いな人もいるのですが、どちらにしてもこの「ハードバップ」を聴かないジャズ愛好家はほとんどいないので、まさにジャズの黄金期といって良いと思います。

ハードバップの特徴はその分かりやすさにあります。と言ってもジャズのわかりやすさなのでポップスとは少し異なります笑。

例えば、ジャズの定番曲「枯葉」を例にしますと、元々はフランスのシャンソンの有名曲であった「枯葉」を、ジャズミュージシャンが「これをやろう」と言い出すわけです。そうすると有名なイントロの「枯葉よ~」の部分からしばらくは聴かせどころなのでみんなで揃って原曲の形を保ちながら演奏するわけですが、曲の聴かせどころが終わると各演奏家のアドリブパートになります。そうすると決められているのはコード進行とリズムと小節数(と演奏家のアドリブの順番)だけで自由に各自が演奏するわけです。

つまり、ハードバップ期のジャズは原曲の持つヒットソング的な要素とジャズのビバップからの伝統であるアドリブ力をがっちゃんこしたハイブリッド型の形式に昇華したわけです。これにより、ジャズはダンス音楽もしくはアドリブ主体の演奏力を聴くだけの音楽から、原曲と言うものを楽しみつつ、原曲の形をとどめながらオリジナリティーをどのように出すのかという演奏家のセンスと、アドリブパートでの演奏力という3つもの要素を同時に楽しめるエンターテイメントになることに成功しました。

先の「枯葉」は多くのジャズメンが取り組んでいる曲ですが、トランペット演奏家のマイルスデイビス(とキャノンボールアダレイ)の「枯葉」とピアノ演奏家のビルエヴァンスの「枯葉」では、曲の雰囲気も違いますし、アドリブはもちろん全く違います。共に全然違う演奏ですが、やはり共に「枯葉」なんです。マイルスの枯葉はしっとり型ですが、ビルの枯葉は跳ねる感じで軽やか。サラヴォーンという女性ジャズボーカリストの「枯葉」は、あのイントロの聴かせどころ「枯葉よ~」のメロディが出てこないぶっ飛んだ歌唱だったりします。

当時のジャズは「枯葉」に限らず、当時流行ったミュージカルの曲とかも多いですね。演奏家オリジナルの曲もたくさんありますが、曲の構成はザクっと言えば、やはりイントロとエンディングのメロディを決めてあるだけで、それらの間はアドリブでつなぐという曲形式が圧倒的に多い。

こういう曲形式の上に、演奏家自身の解釈力と演奏力、バンド全体で何を表現できるのかという計算できないノリや空気感、その時の調子みたいなものが合わさり、数多くの名演・名盤が作られました。

では、こういう密室型ジャズの黄金期のハードバップはどのように聴いたらその楽しさが理解できるのか?音楽好きは世に多いと思いますが、ジャズを踏み込んで聴いてみようと思う層は多くなさそうですし、元の音楽も1950年代や60年代が全盛期なんて聞くと敷居も高く感じられてしまうかもしれません。

とはいえ、最初に言いましたが、ジャズは大衆音楽だったわけです。当時の人達はほとんど予備知識なしに楽しめたわけなので、我々が楽しめないわけはないと思います。

そんなわけで、次回は密室型ジャズ黄金期の作品の楽しみ方についてちょっとお話できればと思っています。

P.S. 興味がある方は「スキ」をクリックしてもらえると嬉しいです。

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