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いじわるな換気扇

某ファーストフード店でテイクアウトをしてバスに乗った。

「やばい、やばい。うわ~、このにおい、絶対ポテトだよね。食べたくなる〜」

と近くの席に座っていた塾帰りらしい小学生女子二人組がきょろきょろとバスの中をみまわした。

私は思わず、ポテトの入った袋を隠した。

(ごめんね、お腹空いてるのに、食べたくなっちゃうよね)

女子たちの犯人捜しは続く。

(あぁ、こんなおいしそうな匂いをバスに持ち込むなんて配慮がなかったな)と、反省。


そういえば、牛丼でもこんなことがあったのを思い出した。

駅前に某牛丼屋があった。

バスが発車する間際に乗り込んできた一人の男性。と、その途端に、ぷ~んとおいしそうな匂い。口の中で、牛丼とタレの味が再現されていく。

夕食前なので、一気にお腹がすいた。

近くの数人もそわそわし始め、隣の人の喉からごくりと音が聞こえてきた。バス中の乗客が、まるでお預けをくらった犬のように見えた。

うなぎ屋の裏の換気扇も、いじわるだった。
うなぎのような高級なものは、私のような庶民にはそうしょっちゅう食べる機会はなく、ただでさえみんなの憧れの的なのに、さらにおいうちをかけるように匂いでも人を引き寄せようとする。

おいしいのはもう充分わかってるから、とせめてタレだけでも買おうかと思って表に回ると、女将さんに、にこにこと出迎えられてしまう。

そんなことがあってか、おいしそうな匂いの料理のときは、換気扇を普段より強めに回す。

どういうわけか、そういう時に限ってセールスの人がインターホンを鳴らしてくる。
「ごめんなさい。今、料理中で手が離せなくて」と断ると、あちらの方も(ああ、そのようですね)と言った顔になって、「お忙しい時に、すみませんでした」といってすんなりと帰っていく。
その背中が、うなぎ屋を後にした自分とおなじ匂いのように思えた。





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河村 恵
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