カウンター“0000”
バスに乗った。
すると、男の人がスマホを小刻みに振っていた。
痙攣とかではなく、振っていた。
5025
5026
5027
スマホの画面にデカデカと書かれた数字が増えていく。
歩数カウンターのようだった。
その男の人は座席に座っていて、そこにはまったのが奇跡のようなくらいでっぷりとしていた。
奥さんに歩いた方が健康的だと言われているのかもしれない。
布製の色褪せた鞄が、まるでミニチュアのように膝に乗っていた。
事情は想像でしかないけれど、降りるまでにその男性のカウンターは8000を超えていた。
最近、息子たちがカウンターを買った。
押すのが楽しいらしい。
私も子どもの頃、ボタンを押すのが好きだった。
どういうわけか覚えていないが、父にタイプライターをもらったことがある。私は嬉しかった。
当時からスティーブン・キングが好きなので、「ミザリー」のポール・シェルダンや「シャイニング」のジャックが使っていたようなタイプライターで小説を書きたいと思っていた。
さっそく部屋に持ってきてもらった。
けれども、英語がわからなく、打てないことに愕然とした。仕方ないのでローマ字を打って、小説を書いてみた。ガシャガシャとうるさいくらい音をたててかいていたのが懐かしい。
子どもたちは手に収まるくらいのカウンターを懸命に押し続ける。横の出っ張りを回せばすぐに9999にできるけど、そこをあえて1つずつ押していく。
そして、9999から0000になる瞬間に大興奮の子どもたち。
純粋でかわいいな、と思う。
そういえば、バスでみかけた男性のカウンターはいくつになったのか。
やはり10000歩達成した時は、心の中で小躍りしたのだろうか。ちょっとだけ気になる。ちょっとだけ。
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