記憶のリブート 第六話
リセット症候群 ミホ
「んー、もう!」
美穂は持っていたスマホをベッドに投げつけた。
ベッドの上で小さく震えるスマホを置き去りにして、外に出た。
いくあてなんかない。
とりあえず、の感覚でコンビニに入った。
ドリンクコーナーでレモンの炭酸飲料を手に取った。
むしゃくしゃしたこの気持ちを炭酸の泡で一気に吹き飛ばしたい。
ポケットに手をやり、舌打ちした。
「スマホ置いてきたんだった」
美穂は持っていた炭酸飲料を元の場所に戻して、コンビニを出た。
スマホなきゃ買い物できないじゃん。
でもスマホなんか見たくもない。
きらら達が昨日カラオケに行ってきたらしい。きらら達というのは高校の同じクラスの女子グループだ。いつも美穂を含めて5人でよく遊びにいく。
「やっほー、ミホ。昨日のカラオケどうしてこなかったの?バイト?」
レイからのメールで発覚した。美穂がはぶられたことが。
「聞いてないんですけど。てか、きらら、昨日帰り一緒だったのに。むかつく」
「えーーー そうだったの?きらら、みほが来れなくて残念がってたよ」
きららと美穂はカラオケでいつも点数を競っていた。
前回、満点を出した美穂は、きららに危うくクリームソーダをかけられるところだった。それを止めてくれたのがレイだった。
「きららのやつ、許さないから」
電話を切ると、アドレス帳を開いて、全部消去した。ラインもアプリごと消した。
軽くなったスマホを見て、リセットされた気分になる。
もう何回目だろう。
いつも伸晃(のぶあき)に愚痴られる。
「こーゆーのやめてくんない?会えなくなるじゃん」
伸晃のことは好きだ。美穂だって会いたいと思う。けど、むしゃくしゃすると全ての人間関係をリセットしたくなってしまう。リセットするときは、伸晃のこともリセットしたい衝動に駆られる。
伸晃はこの危機を3回は経験している。高校1年の終わりから付き合っているから6ヶ月で3回。
確かに、迷惑なペースでリセットしている。
きらら達とは関わるのをやめた。
向こうもあからさまに無視してくる。1学年120人のこの学校で、美穂がリセットした友達は67人だった。レイはリセットしても友達のままでいられる不思議な子だ。
「ミホ、リセット症候群って知ってる?」
「あぁ、それって私のことでしょ?そんな名前までつけられてんだ」
「いっぱいいるらしいよ」
「私みたいな嫌な奴に振り回されてる人がその何倍もいるってことか」
「そうだよ。引っ越ししたときは焦ったよ」
「あれは、親の連絡ミス」
「ミホだって一言も教えてくれなかったじゃん」
「ああ。そうだけど。なんていうか、サプライズにしたかったんだよね。学区変わらないし、いっかなーって。夏休み前に言おうとしたら、レイ、休んじゃったし。もう済んだことじゃん」
「ミホ、私、なんでも話聞くから。相談してよね。それと、私だけには連絡取れるようにしておいて」
「だから、そういうのがうざいっていうの」
レイは小学校から一緒だ。いつもショートカットでボーイッシュで、高校の制服もスカートではなくズボンで登校している。見た目以上に中身は女子なんだけど、女子とつるむのはあまり好きじゃないとよくこぼしている。