記憶のリブート 第三話
AI依存症彼氏持ち ミキ
恒雄(つねお)と付き合い始めて1年が過ぎた。
クリスマスを過ぎたあたりから、恒雄の様子おかしい。
あれだけマメだった恒雄からのメールが途切れ途切れになり、こちらが催促してやっと返信をくれることもある。それもなんだか言い訳がましい。
恒雄と付き合ったのは、彼がモテそうにないことも一つの要因だった。
前の彼は散々だった。背が高くてかっこよくて、優しそうで、年収も2000万超えだった。会話の端端で私のことを小馬鹿にしてきて、可愛い女の子には目がなかった。それでも好きだったけど、3回目の浮気で別れた。
恒雄は、私より背が低く、収入も不安定で、見た目も気にしなかった。顔も、服装のセンスもイマイチで、髪なんか寝癖がついたままだったりもした。だが、年上の私に忠実で誠意を感じた。
いつも年上と付き合ってばかりの私にとっては新鮮で、新たな自分を発見していた。
「お腹すいたね」の一言ですぐに小洒落た店を調べて連れていってくれる。
映画見たいけどおすすめある? と聞くと、つらつらと5作品ほど並べて、あらすじと見どころを教えてくれる。
「なんか、AIみたい」
私が笑うと、恒雄の顔がサッと赤くなった。
恒雄の狼狽えた様子。なんてわかりやすいんだろう。
「AIってわかる?」
「そのくらい、知ってるよ」
「あ、ごめん。嫌だった、よね? A Iなんかに似てるって言われるの。ごめん」
とりつくろうとするような笑顔を貼り付けてる恒雄を見るのは初めてだった。
「あ、あれさ、僕もやってみたけど」
「やったことあんじゃん」
「すごいよね。頭いいっていうか」
「そう、そこ言いたかったの。つねちゃん、知識豊富で、そういうところ私、好き」
恒雄は照れたように笑った。
「AIで仕事とかなくなっちゃうのかな」
「美希さんの仕事は、事務系は、危ないよね」
「そう思う。こんなん私じゃなくても誰でもいいじゃんって。T大卒で何やってんだろって」
なりたかった夢をまだ諦めきれない自分がいる。
「僕の仕事も、いずれなくなっちゃうんだろうな。僕さ、小さい頃、駅員さんの切符切る音が好きで、こんな仕事したいなと思ったけど、小学校上がる前には今の改札になってたから、結局自分の切符切ってもらったこと一度もないんだよね。母さんに抱っこしてもらって、母さんの切符持って駅員さんに渡して、切ってもらってた。この駅はどんな形かなって。客がいない時もかちゃかちゃハサミ鳴らして、それがかっこいいなと思ってた」
「つねちゃんって、わたしより年下だよね? 私、そんなん映画でしかみたことないよ」
「え、美希さん知らないの?」
「覚えてないだけかな。私はママのカードをピッてするのが好きだったな」
「おっかしいな。こんな見た目だけど、年下なんだけどな」そう言って恒雄はズレたメガネを直した。
「つねちゃんの実家ってどんなん?」
「田舎だよ。空は広くて、見渡す限り田んぼが広がってる。今度の夏休み、一緒に帰ろう」
恒雄が真剣な目を向けてきて、私の胸は高鳴った。「いいの?」
「美希さんのこと、両親に紹介したい」
そんなことを話していた恒雄がこの一週間連絡なし。
雨ばかり続いて、さらに鬱々とする。
(そうだ、恒雄の部屋に行ってみよう)
(でも、もし、もしもだよ、知らない女がいたらどうしよう)
(いやいや、恒雄に限ってそれはないから)
(あ、でも、恒雄、ピュアだから騙されやすいかも)
(それより、気が利くから、好きって勘違いされちゃったとか)