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連載小説「記憶のリブート」

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連載小説「記憶のリブート」第1話〜第13話収録
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#記憶喪失

記憶のリブート 第十二話

土曜日に会社近くの駅に降り立つのは初めてだった。待ち合わせは駅を降りてバスのロータリーの向こう側にあるあのカフェだ。駅前の店のウィンドウの映った自分を見て前髪に手をやってから、背筋を伸ばして恒雄の元に急いだ。 ドアを開けると笑い声が聞こえた。 すぐに店員が来て、席に案内しようとするのを遮って、窓側の席に向かった。 「恒雄さん、お待たせしました」 「美希さん。今ずっと外見てたけど、正面口から出てきた?」 「正面口しかないですよ、この駅」美希は笑った。「バス停まってたか

記憶のリブート(第十三話)最終話

美穂は伸晃の部屋で、結婚式案内状の宛名をチェックしていた。 「全部オッケーだね。私、あとでコンビニ行くついでにポスト入れておくね」 「頼むよ」 「あー、疲れたね。アイスでも食べよっか」 まだ二人で暮らし始めたばかりで冷蔵庫も一人暮らし用のままだった。伸晃は美穂にカップのバニラアイスを渡した。 「ありがと。それにしても、美希さんこそリセット症候群だよね」 「ああ。記憶なくして、でもやっぱり好きになっちゃうってか」 「わかるなあ、その気持ち。やっぱり同じ人好きになっ