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【未解決事件】真犯人を断言する人物に出会ったハナシ(前編)

 ライター業をしていると、さまざまな人に出会う。経営者や芸能人、学者など、お話を聞く相手の幅は広く、およそ「取材」という名目がなければお会いできない人たちばかりであることが多い。そんな方々に街角でばったり出くわす偶然なんて、ほとんどない。

 しかし、ごく稀に、すれ違いざまに「え?」と振り返ってしまうような出会いはある。今回はそんな、おハナシだ。

 確か、2010年8月頃のことだったと思う。
 当時の僕はまだ会社員で、いちおう夏季休暇というものがあった。そのタイミングで、母方の実家のある東北県に、墓参りに訪れていた。

 その日は駅前にある公園を散策した後、地元の郷土資料館に向かった。当時は日本史メインの雑誌を作っていたので、仕事であれ、プライベートであれ、赴いた先で地元にある歴史に関する資料館に勉強のために足を運ぶのは、さして珍しいことではなかった。

 この日も、そんな調子で現地の歴史を学ぶつもりで赴いたわけだが、少し様子が違った。なぜか、向かう途中で老紳士に声をかけられたのである。

 男性は70歳に手が届くか、届かないか、といったところだ。自転車を引いていたことから、地元の人だろうと推測した。東北人に特有と云っていいほどの白い肌、白髪、薄い青色をしたチューリップハットを被っていたように記憶している。銀縁のメガネに白い半袖のワイシャツ、グレーのスラックスを履いた、どこにでもいそうな男性だった。

男性「どこから来たの?」

 何故に彼が僕に興味を持ったのかは分からない。僕はただ、資料館に向かって歩いていただけで、大きな音を立てていたわけでもなく、突飛な服装をしていたわけでもない。声をかけられたのは5㍍ほど離れた先からで、広い公園の一角だから、何なら彼を避けて、大きく迂回しても資料館にはたどり着ける。

 目の合った瞬間に「これからあなたに話しかけますよ」という意思を持って、僕の方にまっすぐ歩いてきたのが分かった。無視するという手もあったが、誰彼構わず話したがる高齢者というのもよくある話で、不審よりも好奇心が勝った。そんな彼の第一声が「どこから来たの?」だった。

星野「東京から来ました」

 素直に答えた。まあ、ここで交わすべき言葉は挨拶程度だろうと思った僕は、そのまま通り過ぎようとしたが、彼は僕の返答に頷いて、こう返した。

男性「東京から? わざわざ遠くから来たんだね。実は僕も現役の頃、東京にいたんだよ」

 彼の語るところによれば、大学を卒業後、そのまま東京で就職したらしい。2~3年前に定年退職を迎え、故郷に帰ってきた、ということだった。

星野「東京ではどんな仕事をされていたんですか?」
男性「警察だよ」

 意外といえば意外な答えだった。僕の予想としては、一般的なサラリーマンで会社の部長職まで務めたというようなありきたりの返答がくるものだとばかり思っていたからだ。僕の中にある好奇心が少し強くなった。

星野「警察ですか。事件とかを担当するような?」

 これもあえて期待した質問ではなかった。刑事だとか公安だとか、ドラマに出てくるような華々しい経歴を聞くことができればおもしろいが、そんな人物にそうそう出会えるわけはない。

男性「まあ、いろいろね。でも、君のような若い人も名前くらいは聞いたことのある事件を担当したこともあったよ」

 僕はがぜん興味を持った。ここまで云うからには、相当大きな事件に関わったことがあるに違いない。一口に「事件」といってもさまざまにある。「聞いたことがある」というくらいだから、おそらく強盗などの類ではない。「殺人事件だ」という直感が頭の中を駆け巡る。それもかなり有名な殺人事件であるはずだ。いったい何だろう……?

星野「そうなんですか? 僕は熱心に新聞を読むような人間ではないので、もし知らなかったら申し訳ないのですが……。差し支えなければ、どんな事件を担当されたか、教えてほしいです」

 ここまでの問答は、彼にとって何度も繰り返してきたことなのかもしれない。が、こんな誘い水に興味を持たない人間は少ないだろう。僕は、彼の暇つぶしのための策略に、まんまと乗せられたのかもしれないということも頭をよぎった。

男性「三億円事件だよ。知っている?」

 続きはまた後日。

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