ライターとして見つけたかったけれど見つからなかった〝得意分野〟
若い頃に「自分だけの得意分野、専門分野を作りなさい」と、よく云われた。
社会人になってからも特に云われるようになって、「自分にとっての得意分野とは何だろう」と、ことあるごとに考えてきた。
ブログやSNSが隆盛になるにつれ、いろんな人の文章に触れる機会が増えた。それらを覗いてみると、実に多種多様な趣味や考え方、書き方など、とんでもない量の情報と知識が流れ込んでくる。
野球やサッカーなどのスポーツ、ハリウッドから自主制作までの映画、古今東西の文芸作品、ファッションやコスメ、アイドルや俳優のおっかけ情報など、好きなことに没頭している人たちの記述はバラエティに富んでいて、実に面白く読ませてもらっている。しかも、みんな文章がやたらとうまい。フリーライターを名乗って仕事をしている自分が恥ずかしくなるほど、この世にはキレ味鋭い文章を書く人がごまんといて、読む度に身の引き締まる思いがしている。
さて、彼らのように僕に何か秀でたものがあるかというと、何もない。呆れるほど無趣味な上に、無知で無教養。年齢の上下にかかわらず、いつも何かを教わっている身分だ。
いちおう、戦国や幕末など日本史について書くライターとして独立してみたものの、歴史の分野に詳しい人は大変多い。某ウェブメディアで連載をさせてもらっているが、記事がYahooニュースに配信されてコメントがつくと、あれだけ調べて書いた内容だったのに、まったく触れることのなかった史実を滔々と述べるユーザーもいて、腰が抜けてしまうこともある。よくよく調べてみると史実ではなく、小説などで創作された説だったりすることもあるが、それにしても、何を読み、どういう生活をしていたら、こんな知識量になるのか、と毎回新鮮な驚きがある。
僕は歴史に詳しいからこの分野に進みたいと思ったわけではない。「これはおもしろい!」と思わず膝を打つことが多いジャンルだからだ。織田信長が命を落とした、本能寺の変をめぐるミステリーに代表されるような「なぜこうなった?」を考察するのは、とても白熱する。人間味のある争いが繰り返される歴史は、自分の考え方の糧になる。そして、書いていて楽しい。
とはいえ、日本史が自分の得意分野か、と云われると、躊躇してしまう。僕が胸を張って表現していける分野とは何だろう。この問いに対する答えは、まだ見つかっていない。見つかっていないからこそ、本名ではない別の名前で、イチから、書きながら考えていこうと、この場にたどり着いたわけだ。
現在は、発注を受けて、取材して書く、という仕事をしている関係で、これまで浅く広く、いろんな事柄について書いてきた。グルメや映画評、時事問題、経営者のインタビューなどなど、ちょっとしたエロ記事を書いたこともある。とにかく、広く、浅い。何にでも顔を出す、という具合だ。
いずれの記事も専門書を読んだり、話者の経歴を調べたりと、とにかく頭の中にあらゆる知識を放り込んで執筆し、またすぐ次の記事に取り掛かる、といった繰り返しを重ねてきた。それはそれで楽しいけれど、僕の強みを培うとか、得意分野を固めることができるかというと、はなはだ難しい。
考えなしに書いていたって、そんなものは見つからないかもしれないけれど、まずは気楽に、書くことから始めてみるというのが、今の僕の結論だ。
どんなジャンルにしても、有名無名にかかわらず、ものすごい書き手がウジャウジャいる現状では、あれこれ考えていたって始まらないという気持ちもある。
ただ、実は、思うままに書いてみたい分野があったりする。今の僕にはどう逆立ちしても依頼をいただけるわけがないのは分かっているし、僕だけの得意分野というには程遠く、あまりにメジャーなジャンルではあるが、追い追い手掛けていくつもりでいる。
関連する動画を観るのが今の僕の楽しみになっているが、いずれ、それについても書けていけたらと考えている。いずれにせよ、書くことは楽しい。