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冥い(くらい)時の淵より

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亡き父が遺した小説です。小説家を目指し、新人賞に応募したけど 選考に落ちた原稿です。 叶わなかった父の夢を叶えたいと思い、マガジンに投稿します。 40年以上前の作品です。
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2022年10月の記事一覧

冥い(くらい)時の淵より

冥い(くらい)時の淵より

二  3

何故、由希は失踪したのか--
若原の胸をその問いが重苦しく締め付ける。
愛し合っていた、と思う。
心変わり、とは思えなかった。
判らぬが、彼女に失踪させた理由が
あったのだろうと思う。
それなら何故、一言、自分にそれを
言ってくれなかったのか--
いや、その理由まで言わなくとも良い。
何故、別れも告げず消えてしまったのか?--

あと、残された手がかりはあるだろうか、と
若原は考える。

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冥い(くらい)時の淵より

冥い(くらい)時の淵より

二 4

『馬酔木」のドアを叩くと、しばらくして名美が現れた。
「テッちゃん!待ってたんよ。さあ入って」
名美は嬉しそうに言うと、
若原を抱き込むようにして中に入れた。
「すみません。こんな遅くに・・・」
歩きながら若腹は詫びる。
「何言ってんのよ。ほら、愛人のお待ちよ!」

「よお、若原。」
カウンターから村上が迎えた。
「すまんな村上。邪魔だろうとは思ったんだが、
つい甘えてしまった。すまん。

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