第236回:毎週「Nature」誌から一つ、論文のabstract(日本語要約)を選んで、解説しながら紹介するとどんな風になるか? の53回目
Prime editingの勉強はそれなりに進んでおりますので、論文解説というか、今回は技術解説(解読)のほうはそれなりに開始されると信じています。とりあえず「今週は会議にも負けず実験だ!」と意気込んでおります私のところに、Nature誌が届いておりました。
今週号のNature誌(Volume 632 Number 8026)にはどのような論文が掲載されていたのでしょうか?
真っ先に目に付いたのは「分子神経科学:アルツハイマー病脳の単一細胞多領域分析」です。この論文は「アルツハイマー病のある人とない人、合わせて48人の死後脳283試料から採取した130万個の細胞が含まれる」アトラス研究です。
このような研究が進んでくるということはわかっていました。すべての検体が死後のものです。もちろん、対象がヒトですから、生きている状態の検体は扱いようがありません。ただ、アルツハイマー病は病変部の形成にかなりの長期間を要すると思われていますから、たとえ脳の別々の部分をたくさん解析できたとしても、本当に病変部で起きていることといくらかの乖離はあるでしょう。ただ、このような研究は非常に重要で、アルツハイマー病の発症予測につながるような気がいたします。
一方、このような研究がアルツハイマー病の治療に結び付くかはまだまだ今後の研究が必要かと思います。おそらく遺伝子発現の調節や、遺伝子編集、というかゲノム編集かもしれませんが、このような人為的な調整が必要となってくるはずです。もちろん、直接的にどのような物質が神経細胞を壊していくのかを明らかにしてそれを止めるということもできるでしょうが、その点はあまり簡単ではないような気がいたします。あくまで個人の感想ですけれど。
で、生体内でのゲノム編集を可能にしたという研究が「微生物学:マウスの腸における細菌のin situ標的塩基編集」です。
実は、このような研究のコンセプトは私も考えていましたし、おそらく多くの研究者が考えていたと思います。でも、実際に研究していくにはかなりの研究費と大きい研究組織が必要だと思いますので、なかなか小さな基礎的な研究以外は難しい状況にあります。
研究自体はそれほど驚くことはなくて、ファージでゲノム編集のツールを標的の細菌種にデリバリーしてその細菌細胞内で変化させるというものです。
確かにこの方法は有用でしょう。でも、細菌クローン単位でのゲノム編集ができるともっと有用かもしれませんし、細菌クローンと病原性あるいは薬剤耐性が必ずしも結びついていない現状では、応用もかなり限定的なはずです。それでも、やはりファージを使ったゲノム編集キットのデリバリーができる、それも生体内でできることを示したところは非常に重要だと思いました。早速遺伝子組み換え実験計画書を書いて、研究を進めたいと思います。
最後にもう一つの論文が面白そうでした。「微生物学:血液培養が不要で超迅速な薬剤感受性試験」です。
この研究では、患者の血液から細菌を直接集めようと考えているところが素晴らしいと思いました。現代は次世代シーケンサーが活躍する時代ですから、このような「培養不要」のようなことを考えるとときには、たちまち次世代シーケンサーが登場してくるだろうと思います。
まさに発送が臨床的だと思いました。この手法をちょっと応用できないか検討してみたいと思います。
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