第232回:毎週「Nature」誌から一つ、論文のabstract(日本語要約)を選んで、解説しながら紹介するとどんな風になるか? の50回目

本当だったら、本日開催予定の期末試験をどなたかにお任せして学会へ旅立つはずだったのですけれど、明日学位審査というか論文発表会が開催されることになって、急遽フライトをキャンセルして、明日から行くことに…。

私がよくいく学会は凋落傾向であって、だんだんと会員数も減少しているのだとか…。

でも、当たり前かもしれません。科学の内容が変わっているので、特に、私の研究している領域の変化というのは非常に大きく、研究している方の気持ちややり方も変わっていく必要があるのだと思っています。

それで、いつも若い先生のご意見を聞いたり、今までやってきたことの中からまだ残せる技術はあるのかと考えていますが、いかんせん実験できる時間が少なくなってきていて、もうね、蓄積が浅いもんだから、誰かと張り合おうっていう感じになりません。科学に一発逆転はないので、なるべく時間を作って実験していくしかありません。誰か研究費の申請書書いてくれんかな。

さて、今週号のNature誌(Volume 632 Number 8023)にはどのような記事が掲載されていたのでしょうか?

やはり、最初に目についてのは、「集団遺伝学:新石器時代の農耕民の6世代にわたるペストへの反復感染」です。

私たちの研究室も、ゆっくりかつ小さいスケールではありますが、細菌のゲノム解析をやっていますが(なかなか論文はアクセプトされません。とほほ)、このような古代ゲノムの論文を読むと、実際にどのように解析を行っているのかに非常に興味がわきます。そこには結構仮説(想像でしょうか?)を建てる力が重要だと思いますし、科学的な方法もしっかりしているのでしょう。

で、108人の古代人のゲノム解析で、6世代にわたる1系統の家族を含む4つの家系が再構成できたということです。 identity-by-descent analysis(祖先の同定ということでしょうか?)を行っているのですが、現在では、これも、とあるWEBサイトにゲノムデータを投げかけると、解析結果が返ってくるという感じみたいですね。

個人的には、遺伝的なつながりというのは結構わかりやすいとは思いますが、これにおおよその年代(アイソトープとか使ったりして)のデータを足していって、アナログ的に解析していってほしいですが、時代ですね。

今、研究プロジェクトの話をするときに、若い先生とお話しをすると書きましたが、私の考え方では古すぎて、今の研究のやり方について行っていないように感じます。ですから、古い考え方と新しい考え方を融合すると何かができるような気がしているのですが…。

で、この論文では、ペスト菌のほうの全ゲノム解析も行っていて、6世代にわたってペストにり患しているというようなことがわかるようになっています。

このペストにり患するということがヨーロッパ人の人口を減らすことの原因になったと考えることができるようになったとか、ならないとか。

いずれにしても、やはりDNAを材料として研究できることの幸せ感だと思います。

DNAを材料にするといえば、もう一つの論文も、やっぱりです。

遺伝学:世界的に多様なヒトコホートにおける遺伝子発現の多様性の要因」です。

以前より、このようなアトラス研究には注目してきているのですが、もう対象が、全人類(とは言えないけれど方向性としてはそう)になっています。

この研究では、「5の大陸グループに含まれる26の集団にまたがる」731人を対象としていて、「リンパ芽球様細胞株についてのオープンアクセスのRNA塩基配列解読データセット」を開発した問ことですね。

このような研究は、今各種のガンで行われているように、だんだんと蓄積が進んでいくと、人類の進化や、人類が各種疾患や感染症にり患するその要因とか関連因子がわかってくるようになるでしょう。

今、学生などによく話していることは、ゲノム解析が医療の一つの柱になっていく可能性があるということです。大学2年生とか、3年生とかに理解できるかどうかは関係ありませんが、今言っておかなければいけないような気持がすごくしています。

「今後は、医療はゲノムが一つの柱になっていく可能性があります。」といううことをです。

今回の論文だけでなく、多くの論文がその方向性を示しています。問題となるのは倫理的な面ですが、これも予防的な観点、治療的な観点からインフォームドコンセント下に許されていくようになるのでしょう。

でも、科学の発達ということと、発達した科学の現実へ世界編応用を考えると「今後は、医療はゲノムが一つの柱になっていく可能性があります。」という考え方は避けて通れないような気がしています。

少なくとも、今回のような論文はそのようなことを目的として行われていると思います。単に、科学的な点を整理したいというだけではなく、実際の応用も想定されているはずです。

そのように考えると、やはり、私たちの考え方も変わっていく必要があるのでしょう。

若い学生たちにもこのような考え方があることを知っていただくのも重要なのだろう(と信じています)。

そんな感じです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?