短編:人格荒廃者のノート1

__2024年7月22日、○○さんが若い頃に書いたと思われる古びたノートを渡してきた。私は××センターに赴任してきたばかりで彼女のことをあまり知らないので、若い頃の人格水準に興味を持ち、解読を試みた。以下に読み取れた文章を示す。これは民話の変形かなにかだろうか?○○さんは都会の育ちなはずだが…。




あるところに玉のように可愛い子供がいました。その子は恐れることを知らず、悪人と善人を区別することも知りませんでした。ある日その子供が木陰で昼寝をしているときに男が通りかかりました。男は昔から金に困るタチで、いつでもイライラしていました。男はその子を見て鬱憤晴らしにいたずらをしようと思い、こっそりと近づきました。するとその子は目覚めません。しばらく見ていても目覚めないので手や足を触っていましたがその子は幸せな夢から覚めることがありませんでした。男は奇妙に思いました。今まで猫でも犬でも寝てる動物は飛び起きて、人の子は泣き出し、大人は怯えるような男だったために、逃げも泣きわめきもしないその子を心底不思議に思いました。次の日もその子がそこにいたため、やはりまた手足をさわって起きるか見ていました。するとその子はとうとう起き出し、男を見つめて笑いました。男は心底驚きました。俺を見て笑うだと。男の脳には衝撃が走りました。その子のことはもうそれ以上手出しをすることをやめてしばらく見つめているとやはり笑っています。時折つねってみたりしてもそれが悪意だと、痛みだとすら気づきません。

男はその日からその子の夢ばかり見るようになりました。大人になるまでどういう風に育つのか気になって仕方ありませんでした。その子が暮らす村に行って物陰から見て様子を見ることが男の生きがいになりました。ずっとずっとこのまま笑っていて欲しいとそう思っていました。でも男の財布にはいつでも金がありません。金が無いということは、金のために人を脅したり盗みをしなければならないということに他なりません。男はいつでもそうやって生きてきたので、悪事を働くことに何も感じませんでした。ですがその子のことを見ているときだけは自分がやっていることが間違っているとかいないとか、そういう男にとってつまらないことを考えないで済むので、男にとっては次第に大きな存在になっていきました。気がつけばその子が大きくなり、遠くの村へ奉公に出ることになってしまいました。男はその時はもうすっかり満足していて、まだ悪事で生計を立てていますがそれは前よりずっとやりやすく、もはや仕事となっていました。しかしその子は二度と帰ってきませんでした。

正確に言えば大怪我をして奉公も仕事も何もできなくなってしまって、みんなに厄介者にされたために笑うことをやめてしまって帰ってきました。男は眼の前が真っ暗になりました。あの子の笑顔だけがその男に向けられた本当の笑顔だったからです。それがない今、何を生きがいにしていきればいいのでしょうか。男はさらなる悪事にふけります。その子の面影を探し求めて村々を歩き、子供をさらってくるようになりました。子供をさらってきて最初はみんな笑ってくれるのですが金が無い男はしばしば不機嫌になり、そうすると結局みんな泣き出してしまうのでした。すると男は子供を怒鳴りつけて黙らせ脅しつけて最後には殺してしまうようになりました。男は笑顔を求めるあまりに子供をさらってきて殺す鬼となっていたのです。

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