短編:人格荒廃者のノート2
__2024年7月24日、○○さんのノートには不明瞭な部分が大多数を占めるが、時折明確なテーマを持った文章が現れる。以下にノートからもう一つ物語を示す。カルテにはあまり多くの情報はなく、僕にはこれが意味するところがわからないが、解離やある種の性格傾向を描いていることが伺える。精神分析家は喜びそうだが、今の彼女は会話をできる状態ではない。
あるところにとても気の弱い、優しい少年がいました。少年は歌や花が好きで自然の魅力を心から愛せるような美しい心を持っていましたが、みんなからは弱い弱いと冷やかされ、いつもぼんやりとそれを受け流していました。少年は親からも愛されることがありませんでした。少年の親は少年の瞳を見ることがありません。少年は親にとって労働力やご飯の量を減らすだけの人間、あるいは気分が悪い時に殴ったり蹴ったりするための人間でした。
少年には愛する音楽と美しい花々の景色がありましたから、少年は日ごと続く暴力や蔑みや、自分を大切にしてくれない人間たちから自分を守ることができました。しかし少年は段々と疲れてしまいます。音楽は相変わらず優しく、花々は相変わらず美しいのに、それでも心が沈んで、何も楽しいとか自分が本当に自分で、生きているのかどうかもわからない、ひどい混乱の中に落ちていきました。少年には兄弟がいましたが兄弟は親から愛情をもらっていたり、あるいは優秀でみんなから慕われてるように、少年の目には映りました。少年は少しずつ自分が自分でないときが増えていきました。歳を重ね、思春期になると少年はついに自分がどこかへ消えて、気がつくと周りの人間が皆、自分に怯え、かしずいているように見えました。
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