【小説】デスクにて

男:俺は困惑している。
  この会社に入って7年。
  人事から経理に異動して1年。
  すでに経理の仕事にも少しずつ慣れてきた。
  先輩、後輩、年上、年下。誰とでも、それなりに話せるようになった。
  そんなときになって、今更何だ?
  この胸の高鳴りは。
  係長。俺より二回りは年上と思われる女性。
  数か月前まで何ともなかったんだ。何とも。
  何かきっかけがあった訳じゃない。
  でも、いつからか、電話してる声を聞いてしまうようになった。
  すれ違う時に目が合わせられなくなった。
  どういうことだ?
  何が起こってるんだ?
  どちらかというと母親に近い年齢。
  ん?今のご時世、こういうことは思っていいのか?
  年齢で人を見てると思われてしまうのだろうか。
  いや、まてよ、
  「母親に近い年齢」という表現が失礼にあたるとした場合、
  それは寧ろ、母親に対して失礼にあたるんじゃないだろうか。
  いや、そもそも「母親に対して失礼にあたる」って何だ?
  家族なのに、距離があって寂しいじゃないか。
  でも、女性はいつまで経っても女性だという。
  ということは、母親だとしても、
  最低限の女性としての配慮は必要なのかもしれない。
  女性はいつまでも女性。この表現も引っかかってきた。
  「女性はこうだ、男性はこうだ」という言い方自体が
  決めつけで良くないのかもしれない。
  俺は今、何を考えてるんだ?
  何の話からこんなことになった?
女:前田さん、ごめん、少し手を貸してくれる?
男:あ。は、はい。

男は席を立つ。

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