【小説】社長室にて
女:竹本君、何してるの?
男:あー、梅さん。ちょうどいいところに来た。
書類探すの手伝ってくれる?
女:何?また社長から言われたの?
男:そうなんだよー。
さっき電話かかってきてさ。
「書類忘れたから、駅まで届けてくれ」ってさ。
もう、本当に毎回、毎回大変だよー。
女:本当にね。私が入る度に、机の上、ぐちゃぐちゃだからねえ。
男:そうでしょ?
もう、梅さんから言ってやってよ。
女:そうはいかないわよ。私はただの清掃員だもの。
男;だよなあ。
女:そう。それに綺麗にされたら、私の仕事、無くなっちゃうからねえ。
男:そうは言っても限度ってものがあるでしょ。
この中から書類探すの無理だよ。
女:いやあ、毎回、毎回ここまで汚くできるんだから、
ある意味才能よねえ。
男:そんな才能要らないよ。
まったく、どうやってここで仕事してるんだよ。
女:で、どういう書類なんだい?
男:おっ!梅さん優しいねー。緑の封筒。A4サイズの。
女:ふーん。どれどれ。
あ!
男:ちょっと!梅さん!
女:すまないねえ。こんなに積んでるから、落としちまった。
男:ちゃんと積んであった順に拾っといてよ。
あの人、整頓しない割に、そういうところうるさいから。
女:分かったよ。えーっと、この書類が上で、この封筒が下で。
あ!
男:今度は何?
女:これ見てごらん。
女は男に写真を差し出す。
男:社長の写真じゃないか。女とゴルフに行ってやがる。
まあ、金持ってるからなー。女には困らないよね。
女:よく見なよ。
男:え?
女:その女。
男:ん?
あ!
これ、経理課の早紀ちゃんじゃん!
女:そうみたいだねえ。
男:何だよー。俺、早紀ちゃん狙ってたのに。
女:どうやら、先を越されちまったようだねえ。
男:あー、もう。やめた、やめた。
梅さん、ありがと。
女:書類はいいのかい?
男:ああ。「見つかりませんでした」って言っとくよ。
実際、見つからなかったし。
女:この写真は?
男:貸して。
男は写真を机の上に置く。
男:これでよし。
女:どういうつもりだい?
男:これで俺がこの写真見たの分かるでしょ。
そしたら、あいつ、早紀ちゃんと遊ぶの止めるかもしれない。
女:そうだねえ。
でも、遊ぶの止めるより先に、あんたがクビになるだろうねえ。
男は女を見る。
男:梅さん!やっぱり、封筒探して!
女:緑の封筒かい?
男:そう!
あと、その写真が入ってた封筒も!
全部、もとに戻して、バレないようにしよう!
女はにっこり笑う。
女:恋は盲目だねえ。
男:まったくだ。自分で自分が恥ずかしいよ。
梅さん、今日のことは2人の秘密ね。
女:分かってるよ。若いっていいねえ。
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