【小説】駅までの道にて
男:寒くなってきたな。
女:うん。そうだね。
男:いやー、受験まであと1年か。
女:そうだね。
男:俺たちも来年3年か。
女:そうだね。
男:前島、なんかいつもと違わないか?
ひょっとして、もう今から緊張してるのか?
女:そんなことないよ。
男:そうか。まあ、今から緊張しても仕方ないからな。
リラックスしろよ。
女:だから、違うってば。
2人は黙る。
男:修学旅行、疲れたな。
女:そう?私は楽しかった。
男:そうかあ?
受験までの大事な時期なんだから、
修学旅行なんか無くて良かったと思うけどな。
女:バスガイドのお姉さん、面白かったし。
男:ああ。あのバスガイド?変な奴だったよな?
妙に明るくてさ。
女:でも、なんか私たちに本気で向き合ってくれてた気がする。
仕事ってだけじゃなくて。
男:お前、あんな奴の言葉、信じちゃダメだぞ。
恋愛がうんぬん言ってたけど。そんなのしょうもないことなんだから。
女:しょうもなくない!
女は立ち止まる。
男:前島?
お前、あのバスガイドの話に感化されてる訳じゃないよな?
女:悪い?
男:本当かよ?
お前、今、大事な時期なんだぞ。
女:大事なのは分かってるよ!
でも、大事なのって、勉強だけなの?受験だけなの?
男:前島、一回落ち着け。
女:落ち着いてるよ。
でも、あれからずっと考えちゃうの。何が大切なんだろうって。
男:だから、今頑張れることを頑張れってことだろ。一番大事なのは。
女:分かってる。
でも、そのために自分の中ではっきりしておきたいことがあるの。
女は男を見る。
女:片桐、受験終わったら、私たちが合格したら、
私、片桐に告白するから。
男:前島。
女:もう何も答えなくていい。私、もう迷わない。
片桐の言う通り、また勉強頑張るから。
男は女を見る。
男:前島、ありがとな。
2人は黙って歩き出す。
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