突然吹奏楽部の顧問になる(11)
経験のない吹奏楽部の顧問となって3年目。
・進学校で高校3年生担任
・大学受験課外を4コマ(現代文・古文、記述対策・小論文)
・課題研究担当
・吹奏楽・合唱部顧問(副顧問なし)
・地区吹奏楽連盟事務局
4月から新しい校長先生が来ました。吹奏楽連盟事務局校の学校長には、「地区吹奏楽連盟会長」になってもらう必要があります。コンクールなどの主催行事では挨拶だけでなく、来賓接待などの業務もあります。
新しい校長先生は柔らかい感じです。会長職のことを伝えるとご理解をいただきました。ただ、「君の業務は、ちょっと多すぎというか、あなたをサポートしてくれる人はいるの?」を聞かれました。
「副担任の先生です。あとは全部一人でやるしかないです」
「君は、吹奏楽・合唱、どちらも指揮をするの?」
「合唱は、外部の方にお願いしています。」
部員に変化が見えてくる
「コンクール至上主義×猛練習が必要×少数精鋭」という価値観をもった部員の発言力が大きくなっていました。そんなことから部内に分断・混乱も生じていました。
そんな中、3月に東京での演奏会に参加させていただきました。関東圏の全国大会常連校が参加する中、2度目の出演です。
部員に変化が見えたのは、本番前日のリハーサル。
出演団体は、前日「1団体70分の舞台リハ」があります。この様子を、客席で見学させてもらいました。全国大会常連校がどんな練習をしているか、こればかりは、全部員が興味津々です。
最初のバンドは、客席・ステージをフルに使ってチューニング・基礎合奏・サウンドチェックと進んでいきました。すべて生徒さんだけの進行です。顧問の先生は客席最後部で聞いているだけ。リハーサル時間の半分をチューニング・基礎合奏で費やすと、本番の演奏曲を2回通して終了。
次のバンドもほぼ同じ。違ったのは、チューニングの代わりに発声練習をしていたこと。基礎合奏も「歌う~吹く」の繰り返し。そして、リハ時間のほとんどを基礎合奏に費やし、最後に顧問の先生の指揮で一回通して終わり。
この段階で、学生指揮者がパートリーダーを集めました。70分の流れをどするか相談したようです。そして、F高校吹奏楽部のリハは、以下のように進みました。
・個人・パートレベルのチューニングはリハ室で済ませる。
・70分のうち40分は、部員だけで基礎合奏・本番曲の通し・サウンドチェックをする。
・残り30分は顧問に任せる。
参加校の顧問の先生が声をかけてくれる
F高校のリハの様子を、参加校の顧問・部員のみなさんが客席で見ていました。緊張しました(笑)。
リハが終わって、ロビーで片づけをしていると顧問の先生方がやってきます。部員、特にコンクール至上主義系の部員にとっては神様のような先生方ばかりです。
「リハーサル聞かせていただきました。ありがとうございます。」
「いい音していますね。昨年よりも、サウンドが進化しています。」
「ところで、F高校さんも基礎合奏やっていますね。どこから楽譜をもらいましたか」
この頃、「基礎合奏」という概念はまだ一般的ではなく、今では市販されている「基礎合奏の楽譜」も、まだコピーで広がっている状況。ただ、広がっているといっても、それは「基礎合奏の意味を理解できる」と認められたバンドと顧問に、こっそり渡されるもの。
つまり、基礎合奏の楽譜を持っている・練習をしているということは、「誰かが実力を認めたバンド」ということ。
私は、「作曲家のSさんと、高校時代にいた市民オーケストラで一緒だったこと。2年前、経験のない吹奏楽部の顧問となった時、Sさんに連絡して相談に乗ってもらったこと。Sさんの紹介で、同じ県で全国大会に出場したM高校のN先生を紹介してもらい、基礎合奏のノウハウを学んだこと」を伝えました。また、「この演奏会を運営しているT高校のU先生が、中学の吹奏楽部の先輩であったこと。都内であった吹奏楽指導者講習会で再会し、その時、参加を誘われたこと」も伝えました。
「そういうことですか」と満面の笑みがかえってきました。要するに、私の「身元と身元保証人が誰かわかった」ということですね。
気が付くと、その会話を部員たちが聞いていました。
「もしよろしければ、部員に一言、お願いできますか」
「いいですよ」
部員たちの気づき
部員たちは、昨夏のコンクール「県大会銅賞」という結果から、自分たちは下手になっていると思い込んでいたそうです。そういう意味で、東京での演奏会に出ることにネガティブな意識も強かったとのこと。
しかし、次々と有名な顧問の先生が声をかけてくれ、異口同音に
「昨年よりいい音がしている」
「いい練習をしていると感じる」
「基礎合奏って大事だよ。僕たちもこの練習をすることで全国に出られると考えている」
と伝えられると、そして、全国大会常連校が「基礎合奏」をしているのを目の当たりにすると、F高校吹奏楽部は間違った方向には進んでいないという自信がわいてきたそうです。
そして部員から打ち明けられたのは、こんなこと。
・基礎合奏という練習に否定的だったのはコンクール至上主義派の部員
・昨冬のアンサンブルコンテストで県大会を突破したチームは、アンサンブルの練習でも「基礎合奏」を取り入れ、サウンド作りをしていた。一方、県大会銅賞で終わったチーム(コンクール至上主義チーム)は、曲作り中心で「基礎合奏」「サウンド作り」を軽視していた。
・「サウンド作りを丁寧に行うことが重要ではないか」という意識が部員に広がりつつある。そのことで、「限られた練習時間の中で成果を出せるのではないか」「質の高い練習ができるのではないか」「勉強と部活動との両立ができるのではないか」という声が今回の遠征であがっている。
私は、今回の遠征で得たものを、「体験×学び」として活かしてくれることを願っています。要するに「一流に触れて、一流の流儀」を知ってくれればよいです。
(高校生を夜の居酒屋に呼び出してお酒を飲ませるような、そんな大人を相手にしないことです)
そういう意味で、東京での演奏会に参加させていただけたことには、感謝しかありません。そして、「参加の価値を理解する部員」にも感謝と敬意しかないです。
そして、新学期がはじまる
在校生に対し、新年度の校務文章が発表されました。
部員には、相変わらず吹奏楽・合唱には副顧問がいないこと、私は3年生の担任で課外講習も担当すること、そして地区吹奏楽連盟の事務局も担当することを伝えました。
また、コンクール地区予選・県大会の当日が「模擬試験」と重なっており、こちらで当日の練習会場を探していることも伝えました。
つまり、吹奏楽部に関わっている時間はあまりない…ということです。
また、学校の「大学受験指導体制」が固まってきて、1日7時間授業も継続です。少し前に比べると、「部活動の時間」はかなり減っていると言えます。
いろいろ困難はあるでしょう。しかし、みんなには解決する力があるはずです。「全国大会でまた会いましょう」という東京での約束を忘れずに頑張りましょう。大切なのは、「全国で会いましょう」という約束を果たすことではなく、忘れずにいることだと思います。
勉強も同じ。合格することではなく、合格に値する努力と工夫とをしたかだと思います。それが「F高校吹奏楽部の伝統」なのではないですか…。
変な話ですが、「私の多忙さ×吹奏楽部に割く時間が物理的にないこと」が、部員の自主性を促す状況を作ってくれました。何でも顧問に聞く、頼る、依存するという部員の行動も変わってきました。
そのおかげかどうかはわかりませんが、大量の新入部員を迎えることになりました。
せっかくなので、吹奏楽と合唱との垣根を低くしました。
吹奏楽コンクールには55名という制限があります。そこで、吹奏楽コンクールに参加できない部員は、期間中吹奏楽を離れて合唱部員として活動できるようにしました。「目指せ! 歌える吹奏楽部」です。
これも、東京で見た「全国大会常連校のリハ」の成果と言えるでしょう。
少しずつ、分断が解決し、部員が主役の活動になってきました。