夢の中の世界。 no.2 壁の向こうの彼女

壁に寄せた机。
赤茶色の机。
わたしは椅子に座り、壁を前にして絶望している。

わたしにはなんにもない。
色んな感情にふたをして頑張っているつもりだけど、
特に誰かの役に立つわけでも、誰かに迷惑をかけないわけでもない。
後輩は入社して数か月で自分のキャラクターを確立させ、未来を感じさせる。
私は3年目。どろどろと泥のようにおもく、のろく、とどまっている。
それだけ。

家に帰る。
今日は早く帰ってきた。
自分で自分の機嫌くらいとってやろう。
だけど、
なにをしても気持ちはおちつかない。
自分のいやなところがここでも目についてしまう。
わたしは自分が落ち着く方法もしらない。

そして、いま、机にひじをつき、絶望している。

壁に貼り付けたポストカードや、映画のチラシ、日めくりカレンダーをみつめる。
他の人に見せられるものではないけれど、ここだけが、唯一「自分がすきなものなんだ」と言える場所かもしれない。
でも、だからといって何にもならない。
なんにもないわたしが、
なんにもならない壁をみつめている。

。。。。。。

壁は壁
だけど、その壁の向こうに、同じように壁をみつめる人がいたとしたら。

その人は、わたしと同じように絶望しているだろうか。
それとも希望に満ちた手でなにかを無心で作っているだろうか。

目の前の壁の向こう、わたしと同じように虚ろな顔で壁に向き合う彼女。
誰かに否定されたのか、ひどく傷ついている。
なにも考えられない。
なにもする気がおきない。
なにも生み出せない。
表情がよみとれない、そんな顔で壁をみつめている。

わたしは彼女と別次元にいるから気づかれない。
わたしは彼女を正面からみつめている。
すると急にわたしの奥から声が浮かぶ。
「しずんでいかないで」
「しばらくしたらちゃんとあがってきて」
なぜわたしが。
わたしがかけられるような言葉じゃないだろう。

。。。。。。

いいえ、ちがう。
あれは彼女を励ます言葉ではない。
彼女にしずんでもらったらわたしが困る、
それで浮かび上がってきた言葉なのだ。
壁をはさんだ、わたしと彼女。
別次元だけど、たしかに感じられる存在。
わたしは、彼女と静かに向き合いながらだと、
じぶんが沈まないでいれる気がしている。底からあがってこれるような気がしたんだ。


ねえ、
いっしょにつくろうよ。
何か、この机上で。

大丈夫。

きっと何かつくりだせる。



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