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物語から流れこむあたたかでよいもの



読み聞かせの目的

 子どもが生まれると、多くの親はいろいろな思いや願いを込めて読み聞かせをすると思います。
 私自身が子どもが生まれてから読み聞かせを続けてきた目的は以下の3つです。
①本を読むことが好きになるように
②思いやりの心、想像力、語彙力を育むため
③親子で楽しい時間を共有するため(子どもたちが愛情を感じられるように)

物語から流れこむさまざまのよいもの

 私も子どもの頃から本を読むのが大好きで、小学生の頃は江戸川乱歩の小説に登場する私立探偵明智小五郎に憧れたり、赤川次郎さんの三毛猫ホームズシリーズでは、片山兄妹と一緒に物語の中でわくわくしながら事件を追ったりしていました。また、『レ・ミゼラブル』や『愛の妖精』という忘れられない名作に出会ったり、その時に築いた世界観や出会った感情は、今の私を支えてくれているように思います。
 本が私を支えてくれたと常々思うのですが、それはどういうことなのでしょうか。松岡享子さんが、『サンタクロースの部屋』ー子どもと本をめぐってーという本でその一端を分かりやすく伝えていらっしゃいました。

 心の中に、ひとたびサンタクロースを住まわせた子は、心の中に、サンタクロースを収容する空間をつくりあげている。(中略)この空間がある限り、人は成長に従って、サンタクロースに代わる新しい住人を、ここに迎え入れることができる。

松岡享子「サンタクロースの部屋ー子どもと本をめぐってー」こぐま社、2003年、4p

 子どもの頃から大人になった今まで、私の心のこの空間にも、さまざまな出会いの中で、幾人もの住人が住まい、そして成長に伴い出て行かれもしたように思います。今なお、私のその心の空間は新しい住人に期待しながら、出会いを待ち続けているとも言えます。
 そしてまた、「えほんのせかい こどものせかい」という本のあとがきの中で、重い障害を持って生まれたお孫さんを絵本で育てた記録として有名な『クシュラの奇跡』の著者の言葉を引用しながら、松岡さんはこうも語られておられます。

「近年の脳科学、神経生理学の研究によって、幼い日に本に触れることは、発達しつつある脳に『回路をつける』のに役立つこと、単に概念や体験を貯めていくだけでなく、脳の形成を促進し、脳が有効に働く器官となっていくことを助けていることがわかりました。(中略)(Dorothy Butler,Babies need Books, Revised edition, Bodley Head,1998からの引用・著者要約) 

 五十年前、わたしが、「子どもに本を読んでやるとき、その声を通して、物語といっしょに、さまざまのよいものが、こどもの心に流れこみます」と書いたとき、わたしもわずかの体験と直感によって、それを書いたのでした。」

松岡享子「えほんのせかい こどものせかい」文藝春秋、2019年、236p

 松岡さんのおっしゃる「さまざまのよいものが、子どもの心に流れこみます」というシンプルな言葉に、表現することが難しい絵本の読み聞かせの効用とでもいうのでしょうか、それが集約されているように思えます。
 すなわち、絵本の読み聞かせによって、私たち親が目的としているもの、想像している以上の素晴らしいものを、親は子どもたちに与えることができているのかもしれません。

お気に入りの絵本

 私は子供が3人いて、幼児が二人、小学生が一人なのですが、できる限り毎日読み聞かせをしています。
 子どもたちにはそれぞれお気に入りの絵本があるのですが、上の子二人が特に好きな絵本が、かじりみなこさんの描いたうさぎの家族の物語『ラビッタちゃん』シリーズです。
 家族構成が我が家とおなじこともあり、自分たちのことをそのうさぎの子どもたちの名前で呼んだりします。その名前がとても可愛らしく、響きもよく、またラビッタちゃん一家の家庭の温かさも伝わってくるので、子ども達が愛着を持つのもよくわかる気がします。
 子どものときに、そのような特別な絵本に出会えたことは宝物になるでしょう。そして、松岡さんが語られるように物語といっしょにさまざまのよいものが子どもたちの心に流れこんでいく、そんな絵本の読み聞かせの時間をこれからも増やしてあげたいと思います。

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