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動く。2025,1,28

このエッセイシリーズを通じて、「日常の中に潜む美しさや揺らぎ、そして目に見えない感覚や思考を言葉で掬い上げること」を目的としています。
それは、ただの解釈や説明ではなく、読む人それぞれが自分自身の中に眠る感情や記憶を引き出し、触れるきっかけになればという願いがあります。

波や青さといった隠喩的な表現を用いることで、具体的な情景に留まらず、誰にでも当てはまる普遍的な感覚を描き出してます。
このエッセイは、そうした「触れられないけれど確かに存在する何か」を見つける旅路の一部であり、読む方が自身の揺らぎと向き合う時間を持てることを出来ればなと思います。

この一連の作品では、日常の中にある「静かな問い」や「瞬間の美」をテーマにしています。
興味を持った方は、ぜひ過去のエッセイも覗いてみてください。

ではどうぞ。



揺らぎの中で名が踊る。


僕は波である。


岸辺をなぞる線の一部となり
足元の砂に触れるたび、形を変え続けている。

引けば消え、寄せればまた現れる。


僕はこの瞬間、ただの一粒の砂であり
永遠に続く波そのもの。

星明かりが僕を映す。

小さな光が夜の深みに裂け目を作る。

その瞬間、僕は風で溶けていく囁きであり
広がり続ける無数の風のうねりでもある。

波は僕に触れながら語りかける。

口のない震えのある息遣いで
冷たい風が頬を撫で
小さな「泡」が立ち上がる。

遠くでは、地平線がほつれ
波と空が溶けあって僕の輪郭を消していく。

波の光が揺れるたび
砂の上に描かれる線が
波打つ銀の膜のように光り、その揺れが僕の形をふわっと浮かび上がらせる。

実体のない幻想として
探していた柱が
揺らぎそのものだと知ったとき
名前は静かに消えた。

ひとつの触感が始まる瞬間。

それは足元の冷たい砂。

一粒一粒が織りなす小さな息吹。

広がる視界が生まれる瞬間。

それは波が海原を越えて響き
夜明け前の空を抱き込む舞う。

動けば砂が語り
止まれば波が応答する。

名はその動きの中で
狭まり、広がり、形を変える。

けれど、その変化の真ん中に
僕はただ「ここ」にある。

朝焼けが空を染める頃

波は光を抱きしめるように揺れ、

その光の輪郭の中で、

僕は揺らぎの音楽を聴く。

砂の中で
波の中で
光の中で
僕の名は消え、また生まれる。

それはもう僕ではなく、足元に散らばる冷たい記憶でもなく、波が砕けて描いた瞬間の油画でもない。

それは砂がこぼれ落ちる音の中に隠れ、波が編んだ模様が消えゆく間際に漂い、夜明け前の星明かりが見せる淡い蜃気楼に息づいている。

触れれば溶ける。

追えば霞む。

けれどそこにある静かな脈動。



風の中に囁く影のようであり、波間に漂う光の揺らめきのようであり、空と海の境界がぼやける一瞬にだけ顔を出すもの。



それは形を変え続け、
消えては現れる息遣いのようなもの。




波でも砂でもなく、
ただ揺らぎの間に浮かぶ、ただ「ここ」に在る。





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