絵本探求ゼミ第2回 報告
Ⅰ.宿題:良い昔話絵本とは?
「これから語ってみたいと思う方へ」小澤俊夫2016昔ばなしハンドブック P117 藤井いづみが書いている「おはなしの選び方のポイント」の3つのポイントが納得のいくものだったのでそれを基準に今回絵本選びをした。
① 自分の心が動かされたおはなし
(楽しいと思ったおはなし、感動したおはなしなど)
② 声に出して語ったときに生きるおはなし
おはなしの中に出てくる課題がきちんと解決して終わるもの
③ 聞き手が求めているおはなし
前回話題になった赤羽末吉の日本の神話シリーズを読む。昔話に出てくる主人公がどんな困難にあっても主人公の幸せに向かってお話が展開する昔話とストーリーとして語られている神話とは趣が違う。物語と伝記の再現の違いだろうか?家に「ブルガリア昔話」として「金の鳥」があった。表装も美しく、さかたきよこさんの絵にすっかり魅了された。帯には自分たちの言葉を公用語として使えなかったブルガリアの人々が昔話や詩、歌に夢を重ね親から子へ語り継ぎながら民族の言葉や誇りを守り続けてきたことであることが書かれてありブルガリアの昔話に興味を持った。他のブルガリアの昔話を探索すると「いのちの水」という同じく八百坂洋子再話ペネリン・バルカノフ絵があった。この本も表装もピンク系でおしゃれで素敵で内容は「金の鳥」とほぼ同じで登場人物は王さまと3人の王子でいのちの水をとってくるという課題がある。そして一番末の王子が難しい課題を達成する。それをまた上の王子が横取りをする。また困難に会うが末の王子は助けられ水の精とめでたく結ばれる。一回目は銀の王、金の王、水の精に助けられる2回目は銀のドラゴンの子供、銀の魚、金の鳥とそれぞれ3回出会い助けてもらう。意識してみると3回の繰り返しがあり飽きさせない。そして主人公の安全、富の獲得、結婚によるしあわせ、は聴き手が求めているもの、大人の願いが込められていると思いこの絵本を今回選んだ。
Ⅱ各グループで持ち寄られた昔話絵本から特に印象に残ったコメントについて
① Promise of the Happiness―子供絵本として成り立つには幸福が約束されていなければならない、こどもの文学に必要なもの・・光を持っておくこと。例:「スーホの白い馬」 大塚勇三再話 赤羽末吉画 福音館書店
結末は悲しい話だけど最後はほっとする。幸福の約束という理論書で言われている事はどんなに悲惨な戦争物語であっても結末が幸福で終わらなければならない、これから長い人生を生きて行く子供たちに対して人生はつらく悲しい、で終わるのではなく人生は大変なことはあるんだけど生きるに値する、そういう瞬間が来る、背中を押す要素が入っている事がこどもの絵本の条件。例えば「おじいちゃんが死ぬ」というジョンバーニンガム最後のページ、おじいちゃんをなくした少女が乳母車を押している。おじいちゃんはいなくなったけど妹か弟が生れた、いのちの再生の暗示、いのちの輪廻が暗示されている。第二次世界大戦のナチスですごく大変なこと、悲惨な事ばかりだったけれど最後は優しい隣人がやさしい言葉をかけてくれる。人間捨てたものではない、そういうものが必ずどこかに入っている。一人だけ頼りになる大人、寄り添った大人が出てくる、救いがどこかにある、それが子供の文学には必要。表面的な残酷、不幸な結末しかないか、本当にそれしかないか、よく見極めることが大切。人生は不条理にできている、夢物語だけでは子供は納得しない。物語の中で誰か寄り添ってくれる人間捨てたもんではない。自分は今つらいけどもしかしたらこういう人が出てくるかもしれない。可能性、光を持っておくことが子供の本の条件である。とのミッキー先生の解説にとても感動した。
子供の本をその様な視点で読んだりしたことがなかったので作り手の子供に対する深い愛情を感じることができた。今回自分が選んだ「いのちの水」も改めてその視点でもう一度読み返してみて確かにたくさんの試練があるけれどが末の王子が他者を助けることで王子はもっと助けられ最後は幸福を手に入れることができたという物語であることを再確認する。希望を語ること。光を持つこと。高齢者にとっても光となることを意識して読みたいと思った。
② 不条理にさらされているその中で絶望しないで生きて行く術
ブルガリアの昔話から
ブルガリアは東西の文化の交流の場、東北海側と山側の接点の遠野と同じような条件でお話がたまっていった。民族的な複雑、土地柄が翻弄されているその中で絶望しないで生きて行く術としてお話がある。というミッキー先生のコメント。昔話、昔話絵本に込められている思いを改めて知る。また昔話の中から絵本化されているいいお話は、翻訳者、画家に引っ掛かりを持ってほかにどんな本書いているかを探求していくことも勧められた。
③ 昔話と再話の違いについて
例:「シンデレラ」シャルルペロー作 マーシャブラウン絵
童話はこどものために書かれたお話を総称していう。アンデルセンは本人が創作しているのでアンデルセンの創作による童話という。グリム、ペローは庶民が伝え聞いてきたものを再話しているので昔話という。昔話と童話は分けられるべき。しかし日本に入ってきたときに子供のために書かれたものを昔話も童話と訳されたために混同している。ペローやグリムは再話しているので本来ならば昔話の方が本当はよいのでは。
④ 絵本が出された年代、社会的背景を知る。再話と文の違い
例:「一寸法師」「ふしぎなたいこ」「ちいさいおうち」石井桃子文
石井桃子は戦後すぐに絵本を出している。再話とか文とか翻訳者とかの分類がまだできていない時代に子供のために出された。石井桃子が自分のお話として書いているので文としたのではないか。歴史の中で初版がいつだったのかを注目してみることも大切。
⑤ 教科書に載る絵本について
例:「おおきなかぶ」などいろいろ議論があるが良いものであれば子供の心に残っていく
Ⅲ昔話絵本の特徴まとめ
① 昔話と残酷性
物語全体として残酷性だけしかないかその中に救いや光があることを見極
める
② 昔話の絵はどこまで書くべきか 例:「7羽のからす」
一人の娘と7人の少年の物語、語りだと一人の少女が主人公として浮き上がってくるが絵に描くと7人の少年がそれぞれ詳細に描かれ主人公の娘がぼやけ八分の一の視点になってしまう。話に集中できない。耳で聞く昔話と絵本でみるものとの違いがそこに出てくる。絵にしてしまうと画家の解釈、創造になってしまうのでどこまで絵を描くかが課題。こどもの関心があまり外に行かないお話から目をそらさない書き方が求められる。
③ 絵と言葉の関係
絵が十分に語っている場合。絵本を閉じればそこでその世界が終わる。結句がなくてもよい、結句は一つの目安である。
④ 昔話にはなぜ3度の繰り返しが多いのか
シンデレラ3回舞踏会に行く・3度の繰り返しの意味は人間は一回でできるものではない。3回目くらいで乗り越えられる。何回か失敗した後繰り返して成長していく。心が育っていく。
3回の繰り返しの象徴で昔話は描かれている。
⑤ 昔話にはなぜ末っ子が多いのか
人はかつてみんな末っ子だった。一番弱い存在であってもいつかはという幸福の約束が入っている。昔話はみんなのための話、金持ちだけの話ではない、民衆の願いが入っている。
Ⅲ昔話絵本の特徴を知って
9月10月と昔話絵本の特徴の講義があり、折り紙細工のような物語の展開であるとか絵の構成であるとか、末っ子が主人公となる意味、絵本で語られている残酷性の表現、絵と言葉の関係など様々な視点から昔話絵本を読み解いていくことにとても興味を持った。一番の収穫は昔話絵本が長く語り継がれてきているのはそこに民衆の願いや子供に対する深い愛情、希望と光が昔話絵本の中に込められていることを知ったこと。絵本に込められている多くの人の力を改めて感じた。
Ⅳ科学絵本とは?
①図は系図「これ何?」に答える
鑑は一つのものを詳しく見る。「どうして?なぜ?」に答える
② 科学絵本とは
物語が組み込まれ、子供に分かりやすい絵で感動を目指すものであること
③ 物語とは
出来事の連続は単なるストーリー。
出来事と出来事に関係性をつけるとブロット(筋書)になる。
宿題:良い科学絵本とは?
ファンタジー絵本とは何か?