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GIF付き源氏物語 須磨⑨春 旅路
🌷旅路
道中にも紫上の面影が去らず、胸が苦しくなりながら、船に乗る。
日が長くなってきたところに追風もあって、申の刻(夕方4時頃)には、須磨の入り江に着いた。
こんな旅をしたことはなかったので、心細くはあったが、物珍しい目新しい体験ではあった。
昔大江殿と言った所などは、ひどく荒れて松の木が昔の名残りのようにあるばかりで、物寂しさが胸に迫る。
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🧑🏻🦱✨唐国(からくに)に 名を残しける人よりも ゆくへ知られぬ 家居(いへゐ)をやせん
「📌唐の国の故事に左遷陋居で名を残した人よりも、もっと心細い侘び住まいをすることになるのだろうか」
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渚に波の寄せては返すのを見て、伊勢物語の『📌うらやましくも返る波かな』の一節を口ずさむ。
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誰でも知っている古歌ではあるが、この場で源氏の口から聞けば、清新な感動に満ちて、供の者は皆改めて悲しく心打たれた。
振り返れば来し方の山は遥かに霞んで、白楽天の『三千里外遠行人 都を離れて三千里、冷たい枕に独り侘しく病に臥している』という詩の心地がする。
伊勢物語の別の項の📌『櫂の雫』のように涙が落ちるのを抑えることができない。
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🧑🏻🦱✨ 故郷を 峰の霞は隔つれど 眺むる空は 同じ雲居か
懐かしい都を、峰の霞は隔てるが、眺めている空は同じ空である。
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皆辛い思いで聞いている。
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📌時刻
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📌唐の国の故事
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【楚辞 漁父の辞】
屈原曰 挙世皆濁 我独清 衆人皆酔 我独醒 是以見放
屈原曰く
世を挙げて皆濁れるに 我独り清めり 衆人皆酔へるに 我独り醒めたり 是を以て放たる
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📌うらやましくも
【伊勢物語 第7段】
いとどしく過ぎ行く方の恋しきにうらやましくも返る波かな
都からひどく離れてしまった。帰る波が羨ましい。
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むかし をとこありけり 京にありわびて あづまにいきけるに
伊勢尾張のあはひの海づらをゆくに 浪のいと白くたつを見て
いとどしく 過ぎゆく方の恋ひしきに
うらやましくも かへる浪かな
となむ よめりける
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📌都を離れて三千里
『冬至宿楊梅館 白氏文集』
十一月中長至夜 三千里外遠行人
若為独宿楊梅館 冷枕単妝一病身
十一月の冬至の夜 都を遠く離れて旅する人よ
どうしてこんな宿で 病身を冷たい枕に横たえているのか
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📌『櫂の雫』
【伊勢物語 第59段】
我が上に 露ぞ置くなる天の河 と渡る舟の 櫂のしづくか
むかし 男 京をいかが思ひけむ 東山にすまむと思ひ入りて
すみわびぬ いまはかぎりと 山里に身をかくすべき宿もとめてむ
かくて ものいたく病みて 死に入りたりければ
おもてに水そそぎなどして いきいでて
わが上に露ぞ置くなる 天の河とわたる船のかいのしづくか
となむいひて いきいでたりける
都で何かあったのか、男が絶望して、東山に隠棲しようとした。
病を得て死にかけたが、
(熱病だったのか?)顔に水をかけられて、蘇生した。
天の河を渡る船の櫂の雫が降って来たのか、と言って生き返った。
📌顔に水で蘇生 からの連想 折口信夫『使者の書』から
💧蘇生と水の雫 ということで。だいぶ離れるかもしれませんが。
➡️川本喜八郎ムービー「死者の書 (The Book of the Dead)」2005
0:51~
死の間際に一目見た耳面刀自への妄念で、亡霊として大津皇子が蘇る場面。
した した した
『折口信夫 死者の書』冒頭
かの人の眠りは、しずかに覚めて行った。
まっ黒い夜の中に、更に冷え圧するものの澱んでいるなかに、目のあいて来るのを、覚えたのである。
した した した。
耳に伝うように来るのは、水の垂れる音か。
ただ凍りつくような暗闇の中で、おのずと睫と睫とが離れて来る。
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眞斗通つぐ美