54 なるべく挿絵付き 若紫の巻⑬ 藤壺宮の懐妊
・ 真夏の悪阻
藤壺宮の方も、辛い身の上を嘆いているうちに、体調も余計に悪くなっていきました。
早く戻るようにとの勅使が頻繁に来るのですが、なかなか参内できるようになりません。
気分がすぐれず、いつもと様子が違うのです。
人知れぬ秘密の心当たりがあるので、辛い気持ちで「どうなるのだろうか」と思い乱れます。
暑くなってくるとますます具合が悪くなり起き上がることもできなくなりました。
それにつれて妊娠三月ほどの兆候が明らかになってきて、女房たちも気が付いて怪しみ始めます。
宮自身の心の中では源氏の忍んできた夜のことと符合しているので、動転して運命を嘆きます。
女房たちは事情を知らないことなので、驚いて、「こんなに月が重なるまでおめでたい御懐妊を奏上なさらなかったのはどうしたことでしょう」と囁き合います。
王命婦の他に乳母子の弁だけは親しく沐浴のお世話をしているのでいちはやく御懐妊の兆候に気付いていました。
しかし、異変に気付いても互いに口にすべきことではありませんでした。
命婦は一人、逃れ難い宿世なのだと戦慄しています。
宮中へは、病の物の怪のせいで兆候が遅れていたと報告したのでしょう。
皆そのように思っています。
帝はますますこの上なくお愛おしくお思いになられて、勅使もますます頻繁になります。
そら恐ろしさに、藤壺宮の物思いは休まることがありません。
・ 源氏の見た夢
源氏も煩悶の続く中、異様な夢を見たので夢解きを呼ぶと、血筋の先のことで思いもよらぬ身に余ることを言います。
「ただその中に順調にいかないことがあって、お慎みあそばさなければいけなくなることもございます」とも言います。
あまりのことに我が事とするのが憚られて、源氏は、「自分の夢ではなく他のある人の夢なのだ」「その人のことが正夢となるまで人に言ってはならぬ」と口止めをして夢解きを帰します。
・ 夢との符合
「どんなことが起こるのだろう」とあれこれ考えるうちに、藤壺宮懐妊の知らせを聞きます。
「もしやあの夢は、あの方が私の子を御子としてお産みになり、その御子たる我が子が登極されるという意味なのか」と思い当って、有頂天や罪の意識やで混乱してますます我を忘れ、以前にも増して繁く言葉を尽くして文を送ります。
・ 断絶
王命婦は源氏を手引きしてしまった自分の過失が憚られ恐ろしくなって、このことに関わるのをやめようと決意しています。
以前には宮の方から、たまにはほんの一行のお返事があったりしたのも絶え果てました。
眞斗通つぐ美