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53 なるべく挿絵付き 若紫の巻⑫ 密通
・ 藤壺宮の宮中からの退出
源氏18歳の初夏の頃のことです。
藤壺宮は体調を崩して三条にある私邸に退出しました。
源氏は、宮を御心配なさり嘆かれる帝を大層おいたわしくは思います。
でも、それはそれとして、警備の手薄な私邸の滞在を千載一遇と思い、この里下がりの間に何とか宮の元に忍んで行く機会を捉えようと、そのことしか考えられなくなって魂が抜けたようになって、夜歩きもぴたりと止まっています。
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宮中にいても二条院に下がっても、昼間はぼんやりと物思いに耽り、暮れれば三条の宮に忍んで王命婦に手引きを迫ります。
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・ 秘め事
王命婦が根負けして、手引きしました。
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源氏は、やっと叶った無分別な逢瀬の間、今起きている夢のように儚いこのことが現実であるのに現実のこととも思えないようでもあり、そのことが辛くてたまらずやりきれない思いでいます。
藤壺宮の方では、過去に源氏に突然思いもよらぬ落花狼藉の仕打ちを受けたことが心を離れない悩みで、せめてもう二度とないようにと心に深く思っていました。
それなのに、再びこんなことがあったので、思うに任せない宿世を嘆いてとても辛そうです。
それでも尚、得も言われず慕わしく美しいままで、かと言って飽くまでも凛として毅然たる一線は引いて、優美に気高く居る佇まいが、どうしても他の人と違っています。
「どうしてここまで完璧でいらっしゃるのだろう」「そうでなければ自分もこうまで苦しまなかったものを」と、源氏は手前勝手に運命を恨みさえします。
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言い尽くせぬ想いが溢れて、せめて言葉を尽くすために、このまま夜が永遠であってほしいと思います。
短夜の逢瀬は逢わない時よりも却って辛くなります。
「もう一度お逢いすることが難しい現の世ですからこのまま夢の中に紛れてしまいとうございます(📖 見ても また逢ふ夜 まれなる夢のうちに やがて紛るる 我が身ともがな)」
そう言ってむせび泣いているのが可哀想になって、宮も
「この上なく辛い身の上を覚めぬ夢の中のこととしても、人は忘れてはくれず語り草として伝えることでしょう。無理なのです。(📖 世語りに 人や伝へむ たぐひなく憂き身を 覚めぬ夢に なしても)」と返事をします。
(※ 世間の目を理由にして拒絶を言いながら、源氏の夢という言葉を詠み込んで返歌しているのは、源氏の恋情を受け入れていることと読むのだそうです)
宮の煩悶もまことに道理なことで、畏れ多いことです。
王命婦が源氏の直衣などを取り集めて持ってきました。
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・ 二条院に戻る
二条院に戻っても源氏は泣き寝に臥して暮らします。
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王命婦に文を託しますが、『ご覧になりません』という命婦からのいつも通りの伝言があるだけです。
文を開いてももらえないことは当たり前になっていたのですが、今はまた改めてとても辛くて、御所にも出ずに、2、3日引き籠っていました。
帝が「また瘧病でもぶり返したのではないか」と御心配あそばすかもしれないと思うと、ただ恐ろしいばかりです。
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眞斗通つぐ美