源氏物語 夕顔の巻 概略20(回復~右近の述懐)
・ 回復
それから数日経って、九月の二十日の頃には、源氏の体はすっかり回復しました。
病み上がりで面やつれしているのが却って艶やかな若さとも見えて、美貌は不思議に冴えていくばかりです。
物思いがちで、時に涙から慟哭にまで至る姿を見て、物の怪の仕業かと怪しむ者もいます。
・ 右近の物語
静かな夕暮れに右近を召し寄せます。
夕顔のことをいろいろ聞きたいのです。
「あの人がどうしてあんなに身元を秘していたのか、私には今でもわからないのだ」「本当に賤しい素姓の者だったとしても、私にこれだけの真実があるのだから、打ち明けてくれてもよかったではないか」「秘密を明かせるほどには信じてくれていなかったと言うのなら、随分つれないことではないか」
「お隠しになるおつもりなどではなかったのでございます」「お話しする機会などなかったではございませぬか」「最初に三輪山の神様のように忍んで来られた時から、
『夢ではなかったのかしら』『あんな貴い御身分の方が、本当にいらしたのかしら』『名乗ってくださらないのは、気紛れな火遊びのおつもりだからなのよね』
と辛がっておられたのでございますよ」
・ 源氏の告白と後悔
「なんと意味もない隠し合いをしたものか」「身分を隠しておきたいと思っていたわけではないのだ」「ただ、手引きされて夜這うようなあんなことが私には初めてだったので、そういう時の女との受け答えの作法のようなことを知らなかっただけなのだ」
「軽はずみな真似をして世間に指さされてはならぬと帝からの御注意もあり、ちょっとした過失でも取り沙汰される憚りの多い窮屈な身であるから、皆のような戯れの恋を求めての夜歩きなどしたことがなかったのだ」
「しかし、あの夕顔の花の朧げに白く見えた夕べから、あの人のことが忘れられなくなった」
Cf.『夕顔の巻』右近の述懐
眞斗通つぐ美