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源氏物語 夕顔の巻 概略19(病悩 )
・ 源氏の病悩
源氏は、二条院に帰り着いたものの本当に寝たきりになって、2,3日ひどく苦しんだ後には、すっかり衰弱してしまいました。
帝の御耳にも達し、御宸憂は限りありません。
あちらでもこちらでも絶え間なく祈祷が行われ、神事の方では祓、神賑、密教の方でも修法など、言い尽くすこともできないほどの祈りが世に満ちています。
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・ 右近の出仕
苦しい病床から、右近を二条院に呼び寄せる手配をさせます。
夕顔をよく知る唯一の人です。
御帳台の近くに局を与えて、身の回りの世話をさせる女房とします。
源氏の意を汲んで惟光は勤勉に動きます。
主人の病状が心配で気が気ではありませんが、二条院での右近の新しい暮らしに気を配ってやっています。
主人を亡くして本当に一人ぼっちになってしまった右近に同情しています。
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源氏も少し気分のいい時には名指しで用事をさせたりするので、右近も間もなく二条院の生活に慣れてきました。
色の濃い喪服を着ていて、凡庸ながら悪くもない若い女です。
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「あの人との契りのあまりにも短かったことを思うと、何か不思議で、私もその縁でもう長くないのだろうと思うのだよ」
「お前も赤子の頃から一緒に育った主人を亡くして心細かろう」「私が永らえられるなら、あの人の形見としてお前の面倒をみてやりたいと思っていたのだが」
「私も間もなく後を追ってしまいそうで思うに任せない」
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人聞きを憚って声を落として、話しながら弱々しく泣くので、
女主人を亡くしたことは既に起きてしまったこととしても、この方にまでそんなことが起きてはあまりに辛いと右近は思います。
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・ 御宸憂と皆の心痛
二条院の者は皆地に足もつかないほど心配していました。
帝からの御使者も雨霰のように頻繁でした。
帝の御嘆きを伺えば畏れ多くて、病人も何とか気を強く持とうとします。
舅の左大臣も、二条院に毎日通って様々な療法や加持祈祷をさせるよう奔走しています。
・ 回復
それらの霊験があったのか、二十日余りの瀕死の病悩の日々の後、
余病もなく回復したようになりました。
乳母の所で遭遇してしまったと言っている死穢の忌明けと病気回復が同じ日になったので、その日のうちに、御宸憂の畏れ多い清涼殿の殿上の間に参内しました。
退出するときには、左大臣は源氏を自分の車で自邸に伴い、
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病後の御物忌や何やかを、手元で厳しく監督します。
源氏は病が去ったと言っても、何かぼんやりして、どこか知らない世界に蘇生したような覚束ない感じがしています。
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9月の15日か16日の頃のことのようです。
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Cf.『夕顔の巻』病悩
眞斗通つぐ美