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源氏物語 夕顔の巻 概略24(空蝉からの文)
・ 空蝉
弟の小君が源氏の側近くに参上しても、以前のように空蝉に宛てた文を託されてくることはなくなりました。
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空蝉の方も、本当は憎からず思っているのですから、いよいよ見限られたかと悲しい気持ちになっていたところに、源氏が重病だという噂を聞きました。
夫について任地の伊予に下ることになっているので、二度と出会えない源氏のような貴公子と本当に縁が切れてしまうのだという心細さが急に増して、「私のことはもうお忘れですか?」と試す心で文を書きます。
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「御病気と伺ってお案じ申しておりますが、見舞いがないのはなぜかとのお尋ねも頂けない見棄てられた私は、思い悩み苦しんでおります」
「益田の池の歌のように生きている甲斐もございません」
愛した女からの便りに心が浮き立って、夕顔への哀切なる服喪は服喪として、こちらの女への食指も動かないではない、病み上がりの源氏です。
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「生きる甲斐がないなどとは、私の方が言うべき言葉です」
「空蝉の恋の儚さを知った筈なのにまたあなたの言の葉に期待をかけてしまうとは、何と恃みがたい命であることよ」
まだ病後の震える手で乱れ書いた手紙がいかにも美しかった上に、脱ぎ置いた小袿のことを覚えてくれているのが気の毒やら嬉しいやらの空蝉です。
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こんな風に隙あり気に誘うかに見せながら、それ以上に距離を詰める気はなくて、ただ、頑なな女という記憶を書き換えて、いい女だったという思い出をあの貴公子に残して去りたいのです。
この人のいつもの自重の厳しさを破るほどに下向の心細さが切迫していたのでしょう。
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Cf.『夕顔の巻』空蝉からの文
眞斗通つぐ美