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GIF付き源氏物語 須磨②春 それぞれとの別れと退京のわけ…左大臣邸


🌷退京

源氏26歳
3月の20日過ぎに、誰にも知らせずに、近しい者だけ7,8人を供に、ひっそりと都を離れた。
その前に、ゆかりの各所それぞれに暇乞いに回った。
桜も散りかける頃のことである。

≪ 三月二十日あまりのほどになむ 都を離れたまひける …
二、三日かねて 夜に隠れて 大殿に渡りたまへり ≫

🌷左大臣、三位中将(頭中将)、若君(夕霧)と

夜の闇に紛れて致仕の左大臣邸に挨拶に行く。
       (📌致仕の …辞職した)
女の乗る網代車のようにやつして、こっそり入った。

≪ 網代車のうちやつれたるにて 女車のやうにて隠ろへ入りたまふも
いとあはれに 夢とのみ見ゆ ≫

葵上の生前に共に暮らしていた辺りは、寂しく荒れているが、
源氏のいた頃から今まで残っている女房たちが集まって来た。
若い娘たちさえ世の無常を思って涙にくれる。

👶🏻
5歳になった若君(後の夕霧)はとても愛らしくて、はしゃいで駆け寄って来た。
「久しぶりなのに覚えておいでなのは感心だ」と悲しみに堪えない様子で膝に抱く。

≪ 若君はいとうつくしうて され走りおはしたり 久しきほどに 忘れぬこそ あはれなれ とて
膝に据ゑたまへる御けしき 忍びがたげなり ≫

👨🏻‍🦳
左大臣がやってきて、源氏の蟄居の見舞いに参れなかったことを詫び、現政権の恣意的な捕縛追放への恐怖厭世を語る。

≪  大臣 こなたに渡りたまひて 対面したまへり ≫

🌷退京謹慎のわけ

🧑🏻‍🦱
源氏は、
「不幸が前世の報いだと言うなら、今の不幸は全て自分自身の罪のせいなのでしょう」
「勅勘を蒙った者は、微罪であろうが蟄居謹慎すべきだと申しますが、私に対しては遠流に処すべしという声さえ出ているそうです」「私は、朝廷では、罪の中でも余程の罪を冒したとされているのでしょう」
「自分では潔白だとわかっているのですから平然としているのですが、

≪ 濁りなき心にまかせて つれなく過ぐしはべらむも ≫

このまま都にいては、今より重大な罪に問われることにもなりましょう」
「それならば、これ以上の辱めを受けぬうちに

≪ いと憚り多く これより大きなる恥にのぞまぬさきに ≫

遁世してしまおうかと思うのです」

≪ 世を逃れなむと 思うたまへ立ちぬる ≫

などと、退京の理由を丁寧に話す。
二人は桐壺院の昔語りをしながら袖を濡らす。
若君が無邪気に父と祖父に甘えるのが哀しい。

≪ 若君の何心なく紛れありきて これかれに馴れきこえたまふを いみじと思いたり ≫

👨🏻‍🦳
左大臣は、
「先立った娘を忘れる日とてなく悲しんでおりましたが、この有様を見ずに逝ったと思えば、今はむしろそれが慰めにさえなっております」

≪ よくぞ短くて かかる夢を見ずなりにけると 思うたまへ慰めはべり ≫

「幼い若君が年寄りばかりの中に残されて、あなた様にお甘えすることも叶わぬ年月を過ごすかと思うのは何よりも悲しうございます」

≪ 幼くものしたまふが かく齢過ぎぬるなかにとまりたまひて
なづさひきこえぬ月日や 隔たりたまはむと 思ひたまふるをなむ
よろづのことよりも 悲しうはべる ≫

「昔は、本当に罪を犯した者でも、ここまでの目に遭わされた者はおりませんでした」
「しかしそれにしても」
讒言であろうと、おおそれながらとの告発があってから事は動きましょうに」「今回の、どう考えても、何も思い当る節もないのに突然湧き上がった糾問とは、実に奇怪なことでございます」

≪ 言ひ出づる節ありてこそ さることもはべりけれ
とざまかうざまに 思ひたまへ寄らむかたなくなむ ≫

などと、思いの丈を語る。

👨🏻‍🦱三位中将(頭中将)も来て、酒も出された。

≪ 三位中将も参りあひたまひて 大御酒など参りたまふに 夜更けぬれば ≫

夜も更けたので、今宵は左大臣邸に泊まることにする。

🌷中納言の君と情交、月と霞み合う散り敷く桜

女房たちを呼んであれこれ雑談などさせる。
👩🏻
中の、秘かに情けをかけていた中納言の君が、言葉にすることもできない悲しみに暮れているのを、人知れずいじらしく思う。
皆が寝静まってから、懇ろな情交をする。
その為に泊まったのでもあろうか。

夜明けが近くなり、源氏は出て行く。有明の月が美しい。
が終わりかかって、若葉のまだ繁り切っていないささやかな木陰には散り敷いた花びらが敷き詰められたように白く広がり、朝霧の色とほんのり溶け合っていて、

≪ 明けぬれば 夜深う出でたまふに 有明の月いとをかし
花の木ども やうやう盛り過ぎて わづかなる木蔭の いと白き
庭に薄く霧りわたりたる そこはかとなく霞みあひて ≫

秋の夜の情趣よりも優れている。
源氏は隅の高欄に寄り掛かって、暫く物思いに耽る。

≪ 明けぬれば 夜深う出でたまふに 有明の月いとをかし 花の木ども やうやう盛り過ぎて …
 … 隅の高欄におしかかりて とばかり眺めたまふ ≫

中納言の君は、妻戸を押し開けて見送る。
源氏が、「再び逢うことは難しいかもしれない」「こんなことになるとも知らずに、いつでも逢えた頃に無沙汰していたことが悔やまれる」などと言うと、
女は言葉にならず、ただ泣くばかりである。

🌷三条大宮と

若君の乳母宰相の君を使いにして、三条大宮からのお文がある。

≪ 若君の御乳母の宰相の君して 宮の御前より 御消息 聞こえたまへり ≫


≪ 源氏と桐壺帝と左大臣家 ≫

 👩🏻‍🦳➡️
『自分で御挨拶申したかったのですが、気分もすぐれません』『暗いうちにお出になるのは、もうこちらが妻の家ではないから …ああ娘はもうこの世にはいないのだと改めて思えて辛うございます』
『若君のお目覚めまでせめてお待ちになれば』

源氏は泣きながら、
 ⬅️🧑🏻‍🦱鳥部山 燃えし煙も まがふやと 海人の塩焼く 浦見にぞ行く
   「漁師が藻塩を焼く煙があの荼毘の煙に似ているのではないかと、須磨まで見に参るのです」

「運命がうらめしい… 」と、お返事というのでもない風に口ずさみ、
「暁の別れはこんなにも心が乱れるものだった」「今はわかってくれるあなたがいてくれることがありがたい」と言い、

宰相の君は、「別れということはいつでも辛うございましょうが、今朝の別れほど辛いことはございませんでした」と、すっかり涙声になって、本心から悲しんでいる。

源氏は大宮に、
 ⬅️🧑🏻‍🦱
『申し上げたいことはあれもこれもございましたのに、胸が詰まって何も申し上げられませんのをお汲み取りくださいませ』『若君の寝顔など見てしまえば未練が出ましょうから、気を強く持って敢えて急ぎ出るのでございます』と大宮にお返事をお返しする。

源氏の出立を、女房たちは皆覗いて見送る。

≪ 出でたまふほどを 人びと覗きて見たてまつる ≫

入り方の月がとても明るい中に、源氏の姿は虎狼でも泣こうという優雅清艶である。

≪ 入り方の月いと明きに いとどなまめかしうきよらにて ものを思いたるさま
虎 狼だに 泣きぬべし ≫

まして、源氏の十二の元服の日から侍して来た女房たちなのだから、今の様変わりした源氏の様子を言いようもなく悲しく思う。

大宮からは、
👩🏻‍🦳➡️亡き人の別れや いとど隔たらん 煙となりし 雲井ならでは
   「荼毘の煙は雲居に昇っていきましたのに、あなたが都をお離れになれば、娘との仲もいよいよ遠くなってしまうのでしょう」

≪ 亡き人の別れやいとど隔たらん 煙となりし雲井ならでは ≫

とお返事がある。

源氏の退京に加えて、葵上の他界のことも改めて胸に迫り、
源氏の去った邸は、不吉なまでの慟哭に満ちた。

                        眞斗通つぐ美

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