13 なんちゃって図像学 夕顔の巻(1)
六条御息所に通っている頃のことです。
乳母の大弍の病状が重くなりいよいよ尼になったと聞いた源氏は、見舞いに五条の家を訪ねます。
(大弍の乳母とは夫が大弍だということでしょうか)
門が閉まっているので惟光を呼ばせます。
惟光は乳母子で、今は容体の重い母の枕頭に控えているのです。
1 夕顔の家が目に留まる
惟光が来るのを待っている間に、車から、五条のむさ苦しい大路を眺めていると、乳母の家の隣に桧垣を新しくした家があり、
半蔀を4,5間上げて、涼し気な白い簾の向こうに、
女の綺麗な額が沢山こちらを覗いているのが見えます。
額の位置から考えると女たちは皆背が高そうで、変わった景色だと源氏は思います。
お忍びで車も地味にして先払いもさせていないので、身分が知れることもなかろうと暫く覗いてみます。
門は竹を粗く格子に編んだようなのを上げていて、
奥行きもない狭い敷地の家で、目隠しの切懸に
青い蔓が心地よく這って、白い花が笑みこぼれるように咲いています。
「あの白い花は何?」という歌を口ずさむと、随身が畏まって、「夕顔でございます」「こうした賤しい家に咲くのでございます」と答えます。
「気の毒な花だね。一房折って参れ」と命じられて門内に入ります。
ちょっと洒落た遣戸口に、黄色い単衣袴を長めに引きずった可愛い童女が出てきて、「これに載せてお持ちなさいませ。梅のように風情のある枝が付いているわけでもありませんので」と、仄かに色付くほど香を焚き染めた白扇を差し出します。
📌 侘びた家、蔓性の白い花、扇を差し出す女性、牛車。
これも風情満載で、源氏絵の中でも割とよく見かける場面かもしれません。
🌷🌷🌷『夕顔の家が目に留まる』の場の 目印 の 札 を並べてみた ▼
2 乳母の見舞い
乳母の家の門を開けて惟光が出て来たので、花を載せた扇は惟光が託り源氏に手渡します。
乳母が臥せっている部屋には、惟光の兄の比叡山の阿闍梨や、娘と娘婿の三河守も集まっていて、源氏の見舞いに恐縮しています。
乳母も起きて「また御子にお会いできて心残りもございません」と弱々しく泣きます。
源氏は、「こんな姿になってしまって…。長生きして私の出世を見てておくれ」と涙ぐみます。
乳母は源氏の立派な様子に更に涙がこぼれます。
子供たちはこの世への未練をお見せするなんて見っともないのにねえ、とつつき合っています。
源氏は、「母も祖母も亡くした後に世話してくれる人は沢山いたが、本当に甘えられるのはお前だけだったのだよ」「大人になってからは思うように会えなくて心細かったよ」「もう会えないなんていやだよ」と細やかに親密に話して涙を拭います。
袖の薫香が部屋に満ちて、先程まで母を非難がましく見ていた子供たちも、この貴い方にこんなに愛されるとは素晴らしい御宿世だったのだなと母を見直す思いで涙ぐみます。
📌 …と、もらい泣きしそうなしみじみした場面ですが、いい話では終わりません。
我らが源氏は17歳です。
📌 冒頭に『内裏よりまかでたまふ 中宿に』とあるので、源氏は宮中に参内の帰り、六条御息所のところに行く途中で大弐の乳母の見舞いに立ち寄ったのかと思います。
退勤からそのままなら、身分が高いので直衣は許されるのかもしれませんが、頭は烏帽子じゃなくて冠じゃなくていいのかなという気がします。
この場面の源氏は、基本牛車の中で窺い知れないのですが、この後の紙燭で夕顔の扇を見る場面では烏帽子の絵になっているようです。
身分をやつして来ている五条辺りで冠では目立ってしょうがないから、牛車の中で烏帽子に交換した、とかなんでしょうか。
会社を出たらネクタイを外して、みたいな。
それからまた、きちんとしていなくてはいけない六条御息所のところに行く時には冠を被り直したのでしょうか。
下町のおばちゃんちに寄る時は一度ネクタイを外して、その後お嬢様とデートする時はまたスーツをビシッと決めて、みたいな感じでしょうか。
眞斗通つぐ美
📌 まとめ
・夕顔の家が目に留まる
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