
17 夕顔の住まいの変遷
・ 四人の乳兄弟
五条の家は 西の京の乳母 の持ち物だそうです。
「この家主人ぞ、西の京の乳母の女なりける」とありますが、この『女』は『娘』などではなく西の京の乳母本人を指すようです。
実入りのいい地方官に縁付いた若い女が五条の家の持ち主で、派手な暮らしをしていて、宮仕えしている姉妹も出入りしている、という惟光の情報が微妙にずれているのも、噂のまた聞きというリアリティでしょうか。
右近 と 西の京の乳母及びその子の3人の乳兄弟たち との間には緊張関係があったように読めます。
夕顔を守る家で、主流は後から来た西の京の乳母 とその娘たちで、古株の右近は一人血の繋がりがなく、夕顔を喪えば天涯孤独です。

後に西の京の乳母は女子3人の他、男子も3人儲けていることがわかりますが、五条の家には男の気配はなさそうなので、西の京の両親と同居しているのか、それぞれの婿入り先にいるのか。
女子3人も皆五条の家にいるのかもわかりませんが、ざっと色分けしてみまたのが上の図です。
五条の家の夕顔の周りには、右近と、西の京の乳母の娘3人 の 計4人の乳兄弟がいるとざっと考えてみます。

・ 一時的な方違え
夕顔が物寂しい五条にいたのは、
右大臣家の後妻打ち(うわなりうち)の予告に怯えて 西の京の乳母 の家に移ったものの手狭なので、
山里の家に更に移ろうとしたけれど、
方角が悪いので一時的な方違えということでの仮住まいでした。
桧垣を新しくしたというのは、そういう事情で、転宅してくる5月に先駆けて、三位中将の遺産か、西の京の乳母の夫の太宰少弐の出資かで、仮住まいを建て直すほどのことはないが多少は手を入れて、という心でしょうか。

・ 転居の軌跡
三位中将の姫として育った夕顔ですが、頭中将に見出された時には、既に親を亡くしていました。
故三位中将の邸ではなく維持費もかからない小さな家に転居していたのでしょうか。
頭中将は
「いと物思ひ顔にて 荒れたる家の露しげきを眺めて 虫の音に競へるけしき 昔物語めきておぼえはべりし」
もの思う様子で荒れた庭をぼんやり眺めながら虫と競うように泣いているのは昔物語のようだった
と言っているので、荒れるに任せた亡父の邸にそのまま住んでいたのかもしれません。
それから、頭中将の正妻の右大臣家方から後妻打ちの予告を受け、西の京の乳母の元に身を寄せます。
手狭なので山里の家に移ろうとしたが方角が悪いので一時的な方違えの仮住まいとして五条に移り住み、そこで源氏に見出されます。
後に玉鬘と呼ばれる美しい子は、五条には来ずに、西の京の乳母の元にいます。
結局山里の家に住むことはなく、源氏に連れ出されたなにがしの院で落命します。
眞斗通つぐ美