源氏物語 若紫の巻 概略3(北山の朝 山上の雑談)
・ 北山の朝
朝のことですから、山からの眺望はまだ遠くまで霞み渡って、四方の梢もぼんやりと白く煙るように見えています。
若い供人達が主人の気を引き立てようと気遣っています。
「まるで絵のような光景だなあ」「こんな所に住む人は心に辛く拘泥するものなどないのだろうな」
「こんな景色など大して珍しくもございませんよ」「元々巧者であられる殿様が地方の海や山の景色を御覧になりましたら、ますますどんなに素晴らしい御絵をお描きになられますことか」
・ 播磨の国の元の守の噂
良清が、播磨の磯の風景の面白さから元の播磨守の噂話を始めます。
良清は今の播磨守の息子です。
「元の播磨の守は、大臣の家の出ながら、自ら願い出て播磨の国司に退がった変人でございます」「国で反乱が起きて面目も立たないと出家いたしましたのですが、山に入るどころか、見晴らしの良い海辺に豪壮な屋敷を構えました」
「そこの深窓に娘を育てているそうでございます」
「播磨は大国でございますから、国司の間に相当の財を蓄えたのでございましょう」
・ 明石に住む娘の噂
「それで、その娘はどうなの?」源氏が問います。
「器量も気立ても悪くはないようでございます」「その後頻頻と国司が代わります度、何人もが丁重に求婚するのですが、入道が承知いたしません」
「娘の未来に自分の悲願がある、望む縁が得られなければ海に身を投げよ、などと常に申しているそうでございます」
源氏は面白い話があるものだと興味深く聞きました。
供人達は、「竜宮の后になるつもりか」「良清は遊び人だから狙っているのだろう」「しかし、田舎育ちでは、娘もすっかり野暮ったくなっていような」などと笑い合います。
「いえ、母親はいい家の出らしく、都から人も呼んで、眩く育てているようでございます」
「ほほう」「垢抜けない娘に育ってしまっていたら入道も強気でおられなくなっておりましょうから、やはり値打ちのある娘かもしれませぬな」
「どういうつもりでそこまで深く思いこんだのやら」「磯に生うるわかめなど摘むのは人の見る目にもどうかと思うが」
などと言いながら、源氏はどうもこの話に興味を持った様子です。
普通でない恋がお好みだから、こうしたことにもお耳が留まるのだろうと、供人たちは思います。
📌 みるめ
📖 何心ありて 海の底まで深う 思ひ入るらむ 底のみるめも ものむつかしう
Cf. 📖 海人の住む底のみるめも恥づかしく 磯に生ひたる わかめをぞ 摘む ※みるめ:見る目、海松布
📌 藤原純友の乱
藤原純友の乱が 939~941年 と言いますから、明石入道はこの時の播磨の国司だった人という設定でしょうか。
Cf.『若紫の巻』北山の朝 山上で雑談
眞斗通つぐ美
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